空室あきま)” の例文
やがて、細目にそっとあけると、左は喜兵衛の伝ったかた、右は空室あきま燈影ひかげもない。そこからかくに折れ曲って、向うへ渡る長廊下。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こと自分じぶん投宿とうしゆくした中西屋なかにしやといふは部室數へやかずも三十ぢかくあつてはら温泉をんせんではだい一といはれてながらしか空室あきまはイクラもないほど繁盛はんじやうであつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
後に跟いて縁側を折曲つて行くと、同じ庭に面して三ツ四ツの装飾も何も無い空室あきまがあつて、縁の戸は光線を通ずる為ばかりに三寸か四寸位づゝすかしてあるに過ぎぬので、中はもう大に暗かつた。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
婿君の昼の座敷、侍の詰め所というようなへやを幾つも用意するために、家は広いのであるが、長女の婿の源少納言が東のたいを使っていたし、そのほかに男の子も多いのであるから空室あきまもなくなった。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一段高い廊下の端、隣座敷の空室あきまの前に、唐銅からかねさびの見ゆる、魔神の像のごとく突立つったった、よろいかと見ゆる厚外套、ステッキをついて、靴のまま。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あといて縁側を折曲おれまがって行くと、同じ庭に面して三ツ四ツの装飾も何もない空室あきまがあって、縁の戸は光線を通ずるためばかりに三ずんか四寸位ずつすかしてあるに過ぎぬので、中はもうおおいに暗かった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「内じゃお客様が多いから、離れた処で、二室ふたま借りておくけれど、こんな時はお隣が空室あきまだとさびしいのね。ほほほほほ、」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ信也氏が手を掛けて試みなかったのは、他にせめを転じたのではない。空室あきまらしい事は分っていたから。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それお客様御案内と、得衛の知らせに女房は、「こちらへ。と先に立ち、奥の空室あきまへ銀平を導き行きぬ。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが跫音あしおとひそめて来て、隣の空室あきまへ忍んだことを、断って置かねばならぬ。こは道子等の母親である。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)