ちいさ)” の例文
ぜんに奉公していたやしきで、ことのほか惜しまれたということ、ちいさい時分から、親や兄に、口答え一つしたことのない素直な性質だということも話した。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ちいさいじぶんの冬の晩、どこのかへりだらう大叔母に手をひかれてもう半分ほど大戸を下ろしてしまつた、にんべんだか山本だかで買物をすまし、おもてへでると
寄席風流 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
屋内通路アルケイドと、赤、緑、白に塗り立てたおもて口、漆喰細工のちいさい装飾、不可解に垂れ下った屋根、多角形に張り出ている軒、宝石・象牙・骨董を商う店、絹地屋——など
其処そこにこの山があるくらいは、かねて聞いて、小児心こどもごころにも方角を知っていた。そして迷子まいごになったか、魔にられたか、知れもしないのに、ちいさな者は、暢気のんきじゃありませんか。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日が暮れるまで大きい圍爐裏ゐろりの隅にうづくまつて、浮かぬ顏をして火箸許りいぢつてゐたので、父は夕飯が濟んでから、黒い羊羹を二本買つて來て呉れて、お前は一番ちいさいのだからと言つて慰めて呉れた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「貧乏くさい商売だね」お島は自分のちいさい時分から居ずわりになっている男に声かけた。その男は楮の煮らるる釜の下の火を見ながら、跪坐しゃがんでたばこっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あすこのな、蛇屋に蛇は多けれど、貴方がたのこの二条ふたすじほど、げんのあったは外にはないやろ。私かて、親はなし、ちいさい時からつとめをした、辛い事、悲しい事、口惜くやしい事、恋しい事
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日本橋の方へやられたころには、このちいさい弟も父親に連れられて、田舎へ旅立って行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「まあ、そんなにおちいさい時。」
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じっと部屋のなかに坐っているようなことは余り好まなかったので、ちいさいおりから善く外へ出て田畑の土をいじったり、若い男たちと一緒に、田植に出たり、稲刈に働いたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
中には顎下腺炎がっかせんえんとかで死んだ祖母ばあさんの手のあとだというかびくさい巾着きんちゃくなどもあった。お庄は自分の産れぬ前のことや、ちいさいおりのことを考えて、暗いなつかしいような心持がしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「出て来なけアどうするえ。ちいさいものがいちゃ働くことも出来まいが……。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「だから言わんこっちゃない。ちいさい時分から私が黒い目でちゃんとにらんでおいたんだ。此方から出なくたって、先じゃとうの昔に愛相あいそをつかしているのだよ」母親はまた意地張いじっぱりなお島のちいさい時分のことを
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)