とぎ)” の例文
お島は後向になったまま、何をするかと神経をとぎすましていたが、今までだるくて為方のなかった目までが、ぽっかりいて来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あくる日になるとまた武蔵のほうから光悦に、刀のとぎや扱いについて教えを乞うと、光悦は自分の「御研小屋」へ彼を案内して
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仏のまへに新薦あらこもをしきて幽霊いうれいらする所とし、入り口の戸をもすこしあけおき、とぎたてたる剃刀かみそり二てうを用意よういし今や/\と幽霊いうれい待居まちゐたり。
上樣の佩刀はかせ、彦四郎貞宗とやら——東照宮樣傳來でんらいの名刀だといふことでございました——そのとぎから拵への直しを、父がお引受してお預り申上げてゐるうちに
なお金森かなもりに充分の枝葉しようを茂らせ、國綱に一層のとぎを掛け、一節切に露取つゆとりをさえ添え、是に加うるに俳優澤村曙山さわむらしょざんが逸事をもってし、題して花菖蒲はなしょうぶ沢の紫と号せしに、この紫やあけより先の世の評判を奪い
本阿弥の辻に住んでいるところから、人呼んで本阿弥光悦というが、本名は次郎三郎、また本業は刀の鑑定めききと、とぎと、浄拭ぬぐい
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これなども、やはりよそからとぎを頼まれて、預かっている名刀の一つですが、ごらんなさい、惜しいさびをわかせています」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはここのあるじの角兵衛に依頼して、細川家に出入りの厨子野ずしの耕介へとぎにやっておいたものである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに、その刀もただのとぎではなく、潮水浸しおびたしになったのを、さや柄糸つかいと拭上ぬぐいあげまですっかり手入れをしなおしたもので、宗理の手もとでも五十日ほどかかったという話。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……だが、美女のやつれというやつは、美しさにとぎがかかって、いっそう凄艶せいえんというおもむきが深い。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刀のぬぐいやとぎをいたして、禁裡きんり御剣ぎょけんまで承っておりまするが——常々師の光悦が申すことには——由来、日本の刀は、人を斬り、人を害すために鍛えられてあるのではない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼みたい研物とぎものを持って来たのだが、比類のない名刀だから主がいなくてはちと不安心だ。いったいお前の家では、とぎや装剣の仕事にかけて、どれほどの腕があるのか確かめてからのことにしたい。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどただ、ばばも年齢としだけは如何いかんとも仕方がない。伊皿子まで往復した疲れに、今夜は腰が痛いというのだ。——そこで小次郎のとぎの刀を取りに行くのは差控え、翌日あすの夜を待つことになった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)