眼路めじ)” の例文
女の乗った渡舟はそれでもまだ眼路めじの果にあって、一つの黒い点になったかと思うと川すじが迂曲うきょくして、突然見えなくなってしまった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
青々とした高原が眼路めじの限りひらけている。そうして全身をあらわした藍色をした富士山が、庄三郎の眼前にそびえていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
厚い混凝土コンクリート溝渠インクラインが、二十五度ぐらいの傾斜を帯びて、眼路めじも遥かにかすんで、蜿蜒えんえんとうねうねとして、四里先の大野木村まで続いていると聞いては
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
黒い地上に、とり別けてまっ黒に見える巨大な円筒が、眼路めじの限り、はるかの彼方かなたまでギッシリと並んでいるのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
縁のそとは箒目ほうきめをみせたお庭土、ずウッと眼路めじはるかにお芝生がつづいて、木石ぼくせきの配合面白く、秋ながら、外光にはまだ残暑をしのばせる激しいものがある。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仁右衛門は眼路めじのかぎりに見える小作小屋の幾軒かを眺めやってくそでもくらえと思った。未来の夢がはっきりと頭に浮んだ。三年った後には彼れは農場一の大小作おおこさくだった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼はそのことを打ち明けるのに、市から汽車に乗って三十分ほどで行けるZの海岸にしようと考えた。その海岸は眼路めじもはるかなといっていいほど砂丘が広々と波打っていた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
暑い午下ひるさがりの熱気で、ドキン、ドキンと耳鳴りしている自分を意識しながら歩いている。その眼路めじのはるかつきるまで、咽喉のどのひりつくような白くかわいた道がつづいていた。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
奇怪、奇怪、怪しい流血船と、船を襲う殺人怪魔、眼路めじの限り波また波の洋上に行われた、この亡霊の如き事件の謎は、果してどう解くべきであろうか? ——伊藤次郎は茫然として戻って来た。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
万頃ばんけいの豊田眼路めじはるかにして児孫万代を養ふに足る可く、室見川むろみがわの清流又杯をうかぶるにへたり。衵浜あこめはま小戸おどの旧蹟、芥屋けやいくの松原の名勝を按配して、しかも黒田五十五万石の城下に遠からず。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その時、筒井の手がしずかに伸べられ、子供の怖がる眼路めじをふさいだ。伏見ふしみあたりでできる、衣裳の美しい小さい人形であった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
麝香草じゃこうそう薄荷はっか薔薇ばらの咲き乱れた花壇が彼方此方かなたこなたに設けられ、そして甃の両側には、緑の街路樹が眼路めじの限りに打ち続き、その葉陰に真っ白な壁、磨き上げたような円柱
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
見渡せば、眼路めじの限り、黒い波が、無数の怪物の頭の様に、根気よくうごいていた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)