真直ますぐ)” の例文
旧字:眞直
(藁椅子に腰を掛く。学士は椅背きはいに寄りかからずに、背を真直ますぐにして腰を掛く。○間。)あなたマルリンク家とお心易こころやすくしていらっしゃいますの。
「驚くうちはたのしみがあるもんだ。女は楽が多くて仕合せだね」と甲野さんは長い体躯からだ真直ますぐに立てたまま藤尾を見下みおろした。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
青年わかものの入り来たれるを見て軽くいやなしつ、孫屋の縁先に置かれし煙草盆たばこぼんよりは煙真直ますぐにたちのぼれり。君が今朝けさ装衣いでたちはと翁まず口を開きてやや驚けるようなり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
だ宵ながら松立てる門は一様に鎖籠さしこめて、真直ますぐに長く東より西によこたはれる大道だいどうは掃きたるやうに物の影をとどめず、いとさびしくも往来ゆききの絶えたるに、例ならずしげ車輪くるまきしりは、あるひせはしかりし
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
画面を黒く、真直ますぐに截断した岩壁の一かく
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
サモトラケさして真直ますぐに去りぬ。
真直ますぐの街をあゆむごとき
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
藤蔓に頸根くびねを抑えられた櫂が、くごとにしわりでもする事か、こわうなじ真直ますぐに立てたまま、藤蔓とれ、舷と擦れる。櫂は一掻ごとにぎいぎいと鳴る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この真直ますぐなる路の急に左に折るるところに立ち木ややまばらなる林あり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
木の幹の真直ますぐくうに聳ゆる如く
いつもなら手帳のーと印気いんき壺を以て、八番の教室に這入る時分である。一二時間の講義位聴きそくなつても構はないと云ふ気で、真直ますぐに青山内科の玄関迄乗り付けた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
林の貫きて真直ますぐに通う路あり、車もようよう通いるほどなれば左右のこずえは梢と交わり、夏はの葉をもるる日影鮮やかに落ちて人の肩にゆらぎ、冬は落ち葉深く積みて風吹く終夜よすがら物のささやく音す。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)