真底しんそこ)” の例文
旧字:眞底
真底しんそこ、居どころを得たかのごとく、そして真人間に返らんものと、総督の靴を磨く仕事一つにも真心の光をみせていた武松であった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浮気の恋ならば知らぬこと、真底しんそこから思いあった間柄が理屈で諦められるはずがない。たやすく諦めるくらいならば恋ではない。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しかし見た処の外観からして如何にも真底しんそこからノラらしい深みと強みを見せようというには、やはり髪の毛をきいろく眼を青くして
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それのみか、もう一歩夫人の胸中に立ち入って、その真底しんそこさぐると、とんでもない結論になるかも知れなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真底しんそこのどこにか人の情の温か味というものがこの冷たい人の血肉の間にもひそんでいて、それが一本の簪を伝うて流れるそのしおらしさがお玉の胸を突いて
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼の心の真底しんそこではちゃんと自分が娼家界隈へはいっていることを知っているのである。本当は自分の泊ったことのある家々をあがきつつ捜し廻っている訳なのだ。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
段々種が切れて来ると、しまいには、会員を真底しんそこから戦慄させたものに、巨額の懸賞金をつける申合わせさえした。青木愛之助はほとんど彼一人でその資金を提供した。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
豐「私が早く死んだら、お前の真底しんそこから惚れているお久さんとも逢われるだろうと思うからサ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
としきりに彼らをんでかからんとつとめたが、なかなかめない。いかに心中では豪傑をてらわんとするも、真底しんそこよりの豪傑でないから、ますます怖気おじけてガタガタふるえる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「つまり見かけ倒しで真底しんそこは駄目なんでございましょう? よく性格が現れていますわ」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ここに立ち至ってはもう素戔嗚にも、喧嘩に加わるよりほかにみちはなかった。のみならずついに相手の拳が、彼のこうべくだった時、彼は理非も忘れるほど真底しんそこから一時に腹が立った。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
同じ親切にも真底しんそこからのと、通り一ぺんのと二つありますわね。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と仰せになって、真底しんそこからくやしいふうをお見せになった。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これは実に困ったと真底しんそこから私は困り抜きました。
そんな涙ッぽい粧いは自分の嗜虐しぎゃくに似合わないと知っているせいだろうが、このときだけは真底しんそこ、何か身につまされたようだった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私たちは、今日こんにちまで真底しんそこから、互に愛し合って居りました。しかし世間はそれを認めてくれません。閣下、世間は妻が私を愛している事を認めてくれません。それは恐しい事でございます。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
野崎君も赤羽君も見せかけているほどの悪徳家あくとくかでない。唯年少客気ねんしょうかっき無暗むやみに強がる丈けで、真底しんそこは好人物だった。高木君は又行き方が違う。腕力は誇らないが、議論でひとを負かすのを得意とした。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「かくまでの師直の暴悪を、兄者は真底しんそこでは憎んではおられぬように見える。お口では強い返事を使者にいわせておられるが」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今度は続きましょうよ。真底しんそこから後悔しているようですから」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
地獄で母子おやこが救われた恩人とは思ってみても、ついぞ真底しんそこ、自分の男と抱きしめる気にもなれぬし、抱きしめられて、枕をはずしたこともなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……そしてかれらからつぶさに梁山泊の内状を話され、かつまた、泊中の人達の、烈々たる理想をかたり聞かされて、真底しんそこ、自分の考え方もあらためられてしまったのです
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)