牡丹雪ぼたんゆき)” の例文
冬になってから二度めであるが、その季節にしては珍らしく、形も量も多い牡丹雪ぼたんゆきで、門から寮の戸口さえ見えないくらいであった。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
でもさすがに正月だ。門松しめ飾り、松の内の八百屋町をぱったり人通りが杜絶とだえて、牡丹雪ぼたんゆきが音も立てずに降っている。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
花びらのような大きい牡丹雪ぼたんゆきが、ふわりふわり降りはじめていたのだ。私は、障子をあけ、お母さまと並んで坐り、硝子戸ガラスど越しに伊豆の雪を眺めた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
はッとして四辺あたりを見ましたが、大きな牡丹雪ぼたんゆきが降りしきっているのと、雪をかぶった樹木の枝と、ヨハンの居ない石牢の鉄の格子が見えるばかり……。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「大降りだつた割りに早くれたやうですね。牡丹雪ぼたんゆきで二た刻ばかりの間にうんと積つたんでせう、寅刻なゝつ(四時)前に小用に起きた時は、小降りになつてましたよ」
たちまち八百八町は二寸厚みの牡丹雪ぼたんゆきにぬりこめられて、見渡すかぎりただひと色の銀世界でした。
「ロシヤ更紗サラサの毛蒲団を、そっとぬけでてつむ雪を、銀のかざしでさしてみる、お染の髪の牡丹雪ぼたんゆき
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ガラス戸越しに、大きな牡丹雪ぼたんゆきが忙しそうに降っている。午後二時、ほかに客の姿は見えない。
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
朝から降りまない雪のなかを、子供をおぶった芳ちゃんと出かける。積もるとみせかけて、牡丹雪ぼたんゆきは案外なところで消えてゆく。寛永寺坂の途中で、恭次郎さんに逢う。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
牡丹雪ぼたんゆきのような雪片のことを compound snow flake といって、snow crystal という言葉は、ざらめ雪のためにしまって置こうというのである。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
戸外そとは嵐が吹き巻いて、桜の花の盛りだというに、さっきから降っている牡丹雪ぼたんゆきは、嵐にまじり吹雪となり、窓の外部そとから横撲りに凄じい音を立てて襲っている。しかし屋内は静かである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
降りしきる牡丹雪ぼたんゆきのなかを、いそいそした足どりで、原田雲井がやって来た。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そめかみ牡丹雪ぼたんゆき
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
「大降りだった割りに早くれたようですね。牡丹雪ぼたんゆきで二た刻ばかりの間にうんと積ったんでしょう、寅刻ななつ(四時)前に小用に起きた時は、小降りになってましたよ」
日の暮れかたからちらちらしはじめ間もなくおおきい牡丹雪ぼたんゆきにかわり三寸くらい積ったころ、宿場の六個の半鐘はんしょうが一時に鳴った。火事である。次郎兵衛はゆったりゆったり家を出た。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
これが即ちわれわれによって牡丹雪ぼたんゆきあるいは綿雪と呼ばれているものである。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ひさしから外のふかい闇を、春にはめずらしい牡丹雪ぼたんゆきが、ぼとぼとと音を立てて降りしきっている。その黒繻子くろじゅすのような闇に光る雪のしまの中に、禿かむろたちの姿が四つ、帯のうしろを見せて並んでいた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦い半ばの頃から大きな牡丹雪ぼたんゆきが降り出して、朔風さくふう凛々りんりん、次第にこの地方特有な吹雪となりだしていたが、今しも姜維の兵は、その霏々ひひたる雪片と異ならず、みな先を争って、陣門の内へ逃げ入り
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪である——牡丹雪ぼたんゆきが降ってきた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)