無銭ただ)” の例文
旧字:無錢
けれどもそのときにピーボディーは旅籠屋の亭主に向って「無銭ただで泊まることはいやだ、何かさしてくれるならば泊まりたい」
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
連れてったせた車掌がいい男で、たしかに煙草入を——洋服の腰へ手を当てて仕方をして——見たから無銭ただのりではありません。られたのです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無銭ただではわるい、一日に三銭もつかわさるように計らえ。疲れてだろう、脚を伸ばして休息せらるるようにしてあげろ。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
だが、先方さきも正直な小娘である。店番をしている時、無銭ただでとっていったら泥棒とどなれと教えこまれていた。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そういうわけであるから、家賃も無論にやすい。場所によっては無銭ただ同様のところもある。わたしの父も殆んど無銭同様で、泉岳寺に近い古屋敷を買い取った。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三度目にはおそれて近づく人もなくほうってあったのを、剛情な男があって、なにを、それは時のめぐり合せだ、物の祟りなんぞは、箱根から東にはねえ、なんぞと言って、無銭ただ同様で引受けて
一軒のかどにこのくらい咲いた家は修善寺中に見当らねえだよ。——これをながめるのは無銭ただだ。酒は高価たけえ、いや、しかし、見事だ。ああ、うめえ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そういうわけであるから、家賃も無論にやすい。場所によっては無銭ただ同様のところもある。わたしの父もほとんど無銭同様で、泉岳寺に近い古屋敷を買い取った。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
また馬車があっても無銭ただでは乗れませぬから、ある旅籠屋はたごやの亭主に向い、「私はボストンまで往かなければならぬ、しかしながら日が暮れて困るから今夜泊めてくれぬか」
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
無銭ただで乗せてもらっての一語は偶然にその実際を語ったのだろうが、自分の耳に立って聞えた。お相撲さんというのは、当時奥戸の渡船守わたしもりをしていた相撲あがりの男であったのである。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おまけに横須賀の探偵とかいう人は、茶菓子を無銭ただでせしめてんだ。と苦々しげにつぶやきて、あらねむたや、と夜着引被ひっかつぎ、亭主を見送りもせざりける。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
相撲すもうさんの舟に無銭ただで乗せてもらって往還ゆきかえりして彼処あすこで釣ったのだよ。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
連雀れんじゃくの藪蕎麦が近いから、あの佳味おいしいので一銚子、と言われて涙を流した。親身の情……これが無銭ただである。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
席料なしに、そこの何とか云う姉さんに、茶の給仕をさせて無銭ただで手を握るのだ、と云ったものがある。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴下あなたはほんとに智慧者ちえしゃでいらっしゃるよ。百人足らずの人足を、無銭ただつかってさ。」
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いえもし二分が一分でも無銭ただろうとおっしゃりましても切符は真平まっぴらでござるよ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おい、それだっても無銭ただじゃあいけねえよ、はばかりながら神方しんぽう万金丹、一じょう三百だ、欲しくば買いな、まだ坊主に報捨ほうしゃをするような罪は造らねえ、それともどうだお前いうことをくか。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これ、土手で売る馬肉じゃあないが、蹴転けころの女郎の切売を買ったって、当節では大銭だろう。女房は無銭ただで貰うんだ——娘に……箪笥たんす、長持から、下駄、からかさ、枕に熨斗のしが附いてるんだぜ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうなすったんだ。さあ、お入んなさい、え、どうしたんだね。もう始りましたぜ。何でさ、木戸銭なんか要りやしません。お入んなさい、無銭ただうごす。木戸銭は要りませんから、菓子でも買っておあがんなさい。」
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)