無聊ぶれう)” の例文
ミラノの客舍の無聊ぶれうは日にけにまさり行きて、市長の家族も、親友と稱せしポツジヨも我書に答ふることなかりき。
それでもなほたつた一人の無聊ぶれうさに——ある時はそれが無上にやすらかで嬉しかつたけれど——歩きなれた廊下をぶらりぶらりとあてもなく私は病室を出かけて行く。
嘘をつく日 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
あるときも無聊ぶれうくるしんでゐたおりたれかを訪問ほうもんしようかとつてゐるときS、Hた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しかし、かう云つたからと云つて、決して先生が無聊ぶれうに苦しんでゐると云ふ訳ではない。
手巾 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かうして、又してもたうとう生気のない無聊ぶれうが来た。さうしてそれが幾日もつづいた。
そして、その無聊ぶれうの感に湧き立つ若い血が、春雄の繃帶の取れた跡の青い顏にほとばしつたのを見て、義雄も亦、自分の深い胸の奧に於いては、溜らないほどの競爭心をふり起した。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
が、詰り私は、身体は一時間も暇が無い程急がしいが、為る事成す事思ふ壺に篏つて、鏡の様に凪いだ海を十日も二十日も航海する様なので、何日しか精神こころが此無聊ぶれうに倦んで来たのだ。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ては無聊ぶれうねてしきりにうでをさすつてたが、其内そのうち夕刻ゆふこくにもなると、この時刻じこく航海中かうかいちう軍艦乘組員ぐんかんのりくみゐんもつとたのしきとき公務こうむ餘暇よかある夥多あまた士官しくわん水兵すいへいは、そらたかく、なみあを後部甲板こうぶかんぱんあつまつて
サンアントニウス寺の七穹窿は、恰も好し月光に耀けり。柱列の間には行人絡繹らくえきとして、そのさまいと樂しげなれども、われは獨り心の無聊ぶれうに堪へざりき。
義雄はまだ鑵詰の事業の手初めも出來ないのが、無聊ぶれうの感に堪へなかつた。
ながの航海で、無聊ぶれうに苦んでゐたと云ふ事もあるのですが、当の砲術長はもとより、私たち総出で、事業服のまま、下は機関室から上は砲塔まで、さがして歩く——一通りの混雑ではありません。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
田舎の素封家ものもちなどにはよくある事で、何も珍しい事のない単調な家庭では、腹立しくなるまで無理に客を引き留める、客を待遇もてなさうとするよりは、寧ろそれによつて自分らの無聊ぶれうを慰めようとする。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)