点滴したたり)” の例文
旧字:點滴
やっと冷たいのが知れて、てのひらでると、ひやりとする。身震いして少し起きかけて、旅僧は恐る恐るともしびの影にすかしたが、さいわいに、血の点滴したたりではない。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なるほど今町の左右を見れば、軒並に竹竿が立って、その尖端の笊に雨の点滴したたりが光っている。
陰気な、鈍い、濁った——厭果あきはてた五月雨の、宵の内に星が見えて、寝覚にまた糠雨ぬかあめの、その点滴したたりびた畳に浸込しみこむ時の——心細い、陰気でうんざりとなる気勢けはいである。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
居ずまいの乱るるはだに、くれない点滴したたりは、血でない、蛍の首でした。が、筆は我ながらメスより鋭く、双の乳房を、驚破すわ切落したように、立てていた片膝なり、思わず、どうと尻もちをいた。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
函嶺はこねを絞る点滴したたりに、自然おのずからゆあみした貴婦人のはだは、滑かに玉を刻んだように見えた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
枕に響いた点滴したたりの音も、今さらこの胸からか、と悚然ぞっとするまで、その血が、ほたほたと落ちて、しおが引くばかりに、見る間に、びしゃびしゃと肉がしぼむ、と手と足に蒼味あおみして、腰、肩
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
も知れない悪臭い汚い点滴したたりが頬を汚して、一雪が、お伽堂へ駆込んだ時、あとで中洲の背後うしろ覆被おいかぶさった三人のうちにも、青麟の黒い舌の臭気が頬にかかった臭さと同じだ、というのを、荷高が
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
窓下の点滴したたりが、ますます床へ浸出しみだすそうで、初手は、くだん跫音あしおととは、彼これあわいを隔てたのが、いつの間にか、一所になって、一条ひとすじ濡れた路がつながったらしくなると、歩行あるく方が、びしょびしょ陰気に
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時に絶えず音するはしずかな台所の点滴したたりである。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)