灯籠とうろう)” の例文
旧字:燈籠
幾艘もの灯籠とうろう舟のさざめき渡る夜の祭の楽しさは、暗夜行路ともいふべき人の世の運命を、漠然と感じる象徴の楽しさなのであらう。
琵琶湖 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
びんにほつれるある女が夜間薬品店にあらわれると、灯籠とうろう道でもあるくように蒼ざめて、淀川の水面に赤いレッテルの商標を投じた。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
ところどころに石の灯籠とうろうがあったり、池につづいているような小川に石の橋がかかっていたり、構えのなかはまるでお宮さんのようであった。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
色白く、傾く月の影に生れて小夜さよと云う。母なきを、つづまやかに暮らす親一人子一人の京の住居すまいに、盂蘭盆うらぼん灯籠とうろうを掛けてより五遍になる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紀伊守が出て来て、灯籠とうろうの数をふやさせたり、座敷のを明るくしたりしてから、主人には遠慮をして菓子だけを献じた。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
怪物と見えたのは、かさの代りに、麦ワラをたばねてかぶっていた八坂やさかの油つぎ坊主が、灯籠とうろうへ灯を入れていたものであった。
大法を保任し真髄を得たものは、それが露柱ろしゅ灯籠とうろう、諸仏、野干やかん、鬼神、男、女、貴族、賤民、の何であろうとも、礼拝すべき貴さを担っている。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
藤色のふりそでに精好せいごうはかま、気品すぐれた少年がひとり、灯籠とうろうの上につったって、何やら印をむすんでいるのです。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
祖父は泉水の隅の灯籠とうろうに灯を入れてくるとふたたび自分独りの黒く塗った膳の前に胡坐あぐらをかいて独酌どくしゃくを続けた。
地球儀 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
ふと見れば、京橋のかなたには、相互ビルディングがき然とそびえている。夜はようやく町々をこめて来て、橋の柱の上の灯籠とうろうの火がようやく濃くなって来た。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
船上に怪しい叫び声が起り、人の気勢けはいがしたかと思うと、ギヤマンの灯籠とうろうが、舷側から吊し下ろされた。見上ぐると、船上から数人の夷人が、見下ろしている。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
季節風モンスーン前によくあるクッキリと晴れた日で、氷河の空洞のほんのりとした水色や森のように林立する氷の塔のくぼみが……美麗な緑色を灯したところは灯籠とうろうのように美しい。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
岩畳がんじょうな古い門に下ったガラスばりの六角灯籠とうろう。——その下をくぐって一ト足そのなかへ入ったとき、誰しもそこを「仲見世」の一部とたやすくそう自分にいえるものはないだろう。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
町中まちじゅうの若い者が百人も二百人も灯籠とうろうを頭に掛けてヤイ/\云て行列をして町を通る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
灯籠とうろうのとこにあったのに、克ちゃん見えなんだんじゃが」
赤いステッキ (新字新仮名) / 壺井栄(著)
灯籠とうろう
しかしこの時、灯籠とうろうの蔭、木戸の後ろ、縁側の隅などに、幾人かの人間が、えさに狙い寄る猛獣のように、眼を輝かしているのに、八五郎少しも気が付かなかったのです。
この朝、生まれ出た男の子が、後、平家の世盛りには、灯籠とうろう大臣おとどとも、小松内府ともいわれた平相国へいそうこくの嫡男、平ノ重盛であったが——時にまだ二十一歳の若い父親は、産屋をまもる人びとから
百二十間の廻廊があって、百二十個の灯籠とうろうをつける。百二十間の廻廊に春のうしおが寄せて、百二十個の灯籠が春風しゅんぷうにまたたく、おぼろの中、海の中には大きな華表とりいが浮かばれぬ巨人の化物ばけもののごとくに立つ。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
灯籠とうろうの蔭から半分身体を出してこっちを差覗くようにションボリ立っているのは、紛れもなく娘のお雛、青白い額口ひたいぐちから、少しばかり血をにじませて、白々としたものを引っかけた姿は
不思議に美しい——と言ったのは、決して無責任な形容詞ではありません。月の光と、縁につるした灯籠とうろうと、右左から照らされたこの女の顔は、全く、想像も及ばぬ不思議な美しさだったのです。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
盗んだ金は三百両余り、寺の灯籠とうろうの中から平次が見付けました。