しめ)” の例文
手紙は藥劑師の書くもので、それも豫め酢で舌をしめしてから書かないと、顏ぢゆうに疱疹ぶつぶつが出て堪つたものぢやないて。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
今度は玉子焼鍋の底へ半紙を敷いて胡麻ごまの油でしめしますがあんまり多過ぎるとカステラが臭くなりますからホンの紙へ浸みるばかりでいいのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私は彼のしめった頭に武者ぶりつくことによってのみ、位置を保つことが出来たが、波が押し寄せて彼がぐらぐらする度ごとに、まだ半分眠っている私は
彼女は唇を絶えずしめし、眼を異様にしばたたいて、その高まりゆく情熱から逃れようとしたが、無駄だった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ひとり窓のかたわらに座しおる。夕陽ゆうひ。)夕陽の照すしめった空気に包まれて山々が輝いている。棚引いている白雲しらくもは、上の方に黄金色こがねいろふちを取って、その影は灰色に見えている。
その階段を支えている四五本の褐色をしている、しめった木の柱は、澄んだ水底みずそこに立ててある。そこへ出て見ると向いの岸にごつごつした岩が鎖のように長く続いているのが見える。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
三諸山みもろやまから吹いて来る朝風の涼しさに、勅使殿や切掛杉きりかけすぎにたかっていたはとは、しめっぽい羽ばたきの音をして、悠々と日当りのよい拝殿の庭へ下りて来て、庭に遊んでいた鶏の群にまじる。
此方こちらは先刻より原丹治が刀の柄を握りつめ、裏と表の目釘をしめして今や遅しと待設けて居る所へ、通り掛りまするという、此の結局おさまりは何う相成りますか、この次までお預りに致しましょう。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
咫尺しせきも弁ぜぬ大雪 そうすると雪が大層降って来たです。だんだんはげしくなってどうにもこうにも進み切れない。もう自分の着て居るチベット服も全身しめってその濡りがはだえに通って来たです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
手拭てぬぐひしめしては、ひげしづくで、びた/\と小兒こどもむねひたしてござる。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これ等の動物をさがす人は四つばいになり、しめった木葉や樹木の片をひっくり返しながら、い廻らねばならぬ。
オブラートがなければ最中もなかの皮をしめして包んでもいいが薬ばかりでは飲みにくいかつ歯を刺撃して毒になる。それから次に炭酸曹達を三グラム以内即ち七、八分ばかり水で飲むのだ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「ええ。」女はまた男のしめった乱髪みだれがみに接吻した。女はなんとも云えないほど悲しかった。泣きたいようであった。しかしその感動には一種の枯れた、乾燥ひからびたような心持ちが交っていた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
今唄口をしめして手向の曲を吹こうと思い、ふと仏壇を見ると、隅の方に立掛けて有るのは山風の一節切で、そのそばに黒羅紗の頭巾が有りまする、山風と蒔絵をした金銘が灯明とうみょう火影ほかげに映じ
「あんまりしめっぽくはないでしょうか。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)