海鳴うみな)” の例文
顕家は綿わたのごとく疲れていたのにさてなかなか眠れなかった。——山風はつよく、麓では遠い兵馬の喧騒が海鳴うみなりに似、夜じゅう、何か事ありげだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼくたちは、よるとなく、ひるとなく、あのゴーウ、ゴーウとほえるような、また遠方えんぽうで、ダイナマイトでいしくだくような海鳴うみなりをきながら、家事かじのてつだいをしたり
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
天気朦朧もうろうたる事数日すじつにして遠近ゑんきん高山かうざんはくてんじて雪をせしむ。これを里言さとことば嶽廻たけまはりといふ。又うみある所は海鳴うみなり、山ふかき処は山なる、遠雷の如し。これを里言に胴鳴どうなりといふ。
だんだんうみちかづくと、かぜが、つよいていました。そして、まつが、かぜかれてっている。そのあいまに、ド、ド、ド——という海鳴うみなりのおとがしていたのでした。
女の魚売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
老母は、ただ泣いて、遠い海鳴うみなりのする夜空を指さすばかりだった。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その昼過ひるすぎから、おきほうれて、ひじょうな吹雪ふぶきになりました。よるになると、ますますかぜつのって、おきほうにあたってあやしい海鳴うみなりのおとなどがこえたのであります。
黒い人と赤いそり (新字新仮名) / 小川未明(著)
昨夜ゆうべおそろしい海鳴うみなりがしたから、なにかわったことがなければいいとおもった。」
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)