海面うなづら)” の例文
政子は、黙ってうなずきながら、露や草の実にまみれた身を、そのまま、たおれている朽木くちぎへ腰かけて、もう明け近い海面うなづらに向けていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もやが分れて、海面うなづらこつとしてそびえ立った、いわつづきの見上ぐる上。草蒸す頂に人ありて、目の下に声を懸けた、樵夫きこりと覚しき一個ひとり親仁おやじ
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
穴は海面うなづらを拔くこと一伊尺ブラツチヨオに過ぎねど、下は百伊尺の深さにて海底に達し、その門閾もんよくの幅も亦ぼ百伊尺ありとぞいふなる。
海面うなづらいちめんに水霧がたち、日暮れ方のような暗さになって、房総の山々のありかさえ見わけのつかぬうちに、雷雨とともに、十丈もあろうかという逆波さからいなみが立ち
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
二人ふたりはしばし黙して語らず。江の島のかたよりで来たりし白帆しらほ一つ、海面うなづらをすべり行く。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
のたり/\の波の長閑のどかな春の海面うなづら愛鷹山あしたかやまの上から富士が覗いている。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
伊豆の子浦ねのうらに寄り、十一月四日の夜、遠州の御前崎おまえざきの沖あたりまで行くと、海面うなづらがにわかに光りを増し、海全体が大きな手で持ちあげられるように立ちあがったと思う間に
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
どうせの事に、軍鶏籠とうまるかごがここまで来るのを待ち合せていようと、そのまま、明け放れてゆく海面うなづらを眺めていると、彼方あなたの並木から、朝の春風爽やかに、馬の鈴が鳴って来る。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一場の見霽みはらしに上り着いて、海面うなづらが、高くその骨組の丈夫な双の肩にかかった時、音に聞えた勘助井戸を左に、右に千仞せんじんの絶壁の、豆腐を削ったような谷に望んで、幹には浦の苫屋とまやすか
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浜にいるのが胡坐あぐらかいたと思うと、テン、テン、テンテンツツテンテンテン波にちょう打込うちこむ太鼓、油のような海面うなづらへ、あやを流して、響くと同時に、水の中に立ったのが、一曲、かしらさかさまに。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひる過ぎになると、低く垂れさがった雨雲の間から薄陽うすびがもれはじめ、嵐はおいおいおさまったが海面うなづらはまだいち面に物凄く泡だち、寄せかえす怒濤は轟くような音をたてて岸を噛んでいた。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
漫々たる海面うなづらは青色から濃い灰色に変り、はるかなるフレエジュの山の上に薄黒い雲が徂来するのは、多分今夜、西北風ミストラルでもってこのリヴィエラ一帯を吹き荒らそうとする風神ゼフィロスの前芸なのであろう。
浪は水晶の柱のごとく、さかしまにほとばしって、今つッ立った廉平の頭上を飛んで、空ざまにずること十丈、親仁の手許の磨ぎ汁を一洗滌ひとあらい、白き牡丹ぼたんの散るごとく、巌角いわかどに飜って、海面うなづらへざっと引く。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)