泥坊どろぼう)” の例文
荷物にも福澤と記さず、コソ/\して往来するその有様ありさまは、欠落者かけおちものが人目を忍び、泥坊どろぼうが逃げてわるようなふうで、誠に面白くない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
少女の女中さんは、またしても、じぶんの寝室をぬけだして、二階の廊下をまるで泥坊どろぼうのように、足音をしのばせて歩いているのでした。
サーカスの怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
不都合ふつごうやつだ。しかしおとなしく人形をだしたから、いのちだけはたすけてやる。どこへなりといってしまえ。またこれから泥坊どろぼうをするとゆるさんぞ」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
映画はあひる泥坊どろぼうを追っかけるといったようなたわいないものであったが、これも「見るまでは信じられなくて、見れば驚くと同時に、やがては当然になる」
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「うちやったら裸で帰る。あんな恥知らずな電話かけるぐらいやったら、裸で帰る。」「こんな時に泥坊どろぼううなんぞ、悪いこと出来まへんもんだんなあ。」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たぶん退けのおそい駅員がおもてを通るのだろう。それも、ゆっくり自分の家に帰って行く途中に違いない。まさか泥坊どろぼうをしに庭の塀をじ登っているのではあるまい。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
泥坊どろぼうめ!」とブーラトリュエルは地平線に向かって両のこぶしを振り上げながら叫んだ。
庭の植込みに隠れていたかもしれない泥坊どろぼう詮議せんぎや、一応は疑われた婆やさんのこと、酒田の物忘れについての疑惑ぎわくなど、いろいろのことが入りくんでややこしくなったのであるが
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さア其の文治殿は悪人でござるか、乃至ないし泥坊どろぼうでござるか
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ええ、泥坊どろぼうつかまえ損じまして、——」
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
泥坊どろぼう!」
大いにきらひなり殊に貴樣は江州者だと云ふが近江あふみ盜人どろぼう伊勢乞食こじきと云事があり勿々なか/\江州の者は油斷ゆだんはならずとことわるに彼男それは旦那樣貴方の御聞違おきゝちがひなり近江殿御に伊勢子正直と申ので御座りますナニ近江者が泥坊どろぼうと限りますものかといひければ半四郎は否々いや/\夫はかくもなんだか氣味がわるし某は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
仙人ならいろんな術を知ってるに違いないから、それを教わって、上手じょうず泥坊どろぼうになろうと考えました。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ものぐさのおかげで大臣にも富豪にも泥坊どろぼうにも乞食こじきにもならずにすんだのかもしれない。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「なんだろう。人が歩いているような音がしたが、まさか泥坊どろぼうじゃあるまいな。」
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
生れてから泥坊どろぼうをしたことはないが、泥坊の心配も大抵たいていこんなものであろうと推察しながら、とう/\写し終りて、図が二枚あるその図も写して仕舞しまって、サア出来上った。出来上ったが読合よみあわせに困る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして一度盗み食いをしてみると、うまいのうまいくないのって、もう木の実を食ったりかすみを吸ったりしているのが馬鹿らしくて、ごちそう泥坊どろぼうになってしまったのです。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
げじげじから泥坊どろぼう、泥坊からしらみを取って食う鍛冶橋見付の乞食、それから小田原の倶梨伽羅紋々と、自分の幼時の「グロテスク教育」はこういう順序で進捗しんちょくして行ったのであった。
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そういう安心があったものですから、大胆だいたんにやっていますと、客が眼を覚まして「泥坊どろぼう!」とどなりました。五右衛門はびっくりして、すぐ雨戸の隙間から外へ術で逃げ出しました。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
第一には、宅へ始めて尋ねて来る人にはこの風呂屋の高い煙突を目当てにして来るように教えるとわかりが早い。それから、第二には夜の門前が明るくなって泥坊どろぼう徘徊はいかいには不便である。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
どちらにしても、自分が泥坊どろぼうなんかをやるからこんなことになるのだと考えました。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)