沈着おちつき)” の例文
然し、そう云った年配婦人の、淋し気な沈着おちつきと云うものは、また光子ぐらいの年頃にとると、こよなく力強いものに相違なかった。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
老年らしい沈着おちつきをもった父の様子に、半蔵もやや心を安んじて、この宿場の改革が避けがたいというのも一朝一夕に起こって来たものではないことや
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今晴れたかと思ふと直ぐ曇る、まことに沈着おちつきの無い空である。庭の松、葉銀杏はいちやう吉野檜よしのひのき、遠くでは向う屋敷のけやきほゝの木、柳、庭の隅の秋草まで、見る限りの葉が皆動く。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
「ウワーッ、いよいよ昼行灯だ! 一の矢二の矢を仕損じながら、沈着おちつきようはマアどうだ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
春季の大運動會とて水のの原にせし事ありしが、つな引、鞠なげ、繩とびの遊びに興をそへて長き日の暮るゝを忘れし、其折の事とや、信如いかにしたるか平常の沈着おちつきに似ず
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長「いえ、お前が全くう云う心ならば、わしは親父に話をするよ、お前は大変親父の気に入ってるよ、どうも沈着おちつきがあって、器量と云い、物の云いよう、何やれは別だと云って居るよ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しばらくは沈着おちつき払って黙って長煙管ながぎせるふかしてたが、外ではないんですと云うのが口切で、親御さんがおいでの内は遠慮して居りましたが、今月で三月というもの入れて下さらぬのには困ります
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
学校を卒業する頃の菅はエマアソンなぞの好きな、何となく哲学者らしい沈着おちつきを有った青年に成って行った。それにクリスチァンとしての信仰もこの人のは極く自然であった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まりなげ、なわとびのあそびにきやうをそへてながるゝをわすれし、其折そのをりこととや、信如しんによいかにしたるか平常へいぜい沈着おちつきず、いけのほとりのにつまづきて赤土道あかつちみちをつきたれば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
札場の若い男が昼のボックスに長々と寝て西瓜すゐくわの皮をペン小刀ナイフでむいて居る詩であつた。何の関係も無い事だがその詩を思出した。そして、「寂れた沈着おちつきの無い町だ。」とこの町を見た。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
なか/\の沈着おちつきものですから、すぐに出てまいりまして
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いらいらとした旅の心は思うように仕事の出来るだけの沈着おちつきをも与えてくれなかったことを思い、僅に故国の新聞へてて折々の旅の通信を書くにとどめてしまったことを思い
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
春季の大運動会とてみづの原にせし事ありしが、つな引、まりなげ、縄とびの遊びに興をそへて長き日の暮るるを忘れし、その折の事とや、信如いかにしたるか平常へいぜい沈着おちつきに似ず
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
谷から谷を伝い、はたけから畠をはうそのひびきは、和尚が僧智現ちげんの名も松雲と改めて万福寺の住職となった安政元年の昔も、今も、同じ静かさと、同じ沈着おちつきとで、清く澄んだ響きを伝えて来ている。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その異教の沈着おちつきはいっそ半蔵を驚かした。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)