此方こツち)” の例文
其れも長屋で、褓襁おしめの干してあるのも見えれば、厠も見えて、此方こツちでは向ふの家の暴露された裏を見せつけられてゐるのであツた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
然し大抵ならの校長は此方こツちのいふ通りに都合してくれますよ。謂ツちや變だけれど、僕の親父おやぢとは金錢上の關係もあるもんですからね。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
さあ、これからが名代なだい天生峠あまふたうげ心得こゝろえたから、此方こツち其気そのきになつて、なにしろあついので、あへぎながら、草鞋わらぢひも締直しめなほした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
西洋人にる進物の見立をして貰ふには、長く居る金田君に限ると思つてね、彼方あツチ此方こツちとブロードウヱーの商店を案内して貰つた帰り、夜も晩くなるし、腹もいたから、僕は何の気なしに
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
して其の當座、兩人はこツそり其處らを夜歩きしたり、また何彼なにかと用にかこつけて彼方あツち此方こツちと歩き廻ツて、芝居にも二三度入ツた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
背後うしろうねつて切出きりだしたやうな大巌おほいはが二ツ三ツ四ツとならんで、うへはうかさなつて背後うしろつうじてるが、わし見当けんたうをつけて、心組こゝろぐんだのは此方こツちではないので
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
べつ言葉ことばはさず、またものをいつたからといふて、返事へんじをする此方こツちにもない。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と思ツてつくゑの前へ引返すと、母親はにぶ眼光まなざしまぶしさうに此方こツちを見ながら
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
流の彼方あツち此方こツちで、うかすると燦爛たる光を放つ……霧は淡い雲のやうになツて川面を這ふ……向ふの岸に若いをんなが水際に下り立ツて洗濯をしてゐたが、正面まともに日光を受けて、着物をしぼしづく
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)