此処彼処ここかしこ)” の例文
旧字:此處彼處
神女達の纏ふ羅は、両岸の此処彼処ここかしこから囀り渡る小鳥の声にも、ヒラ/\とたなびいて緑なる春の河を静かに昇つて行つた。
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
雨の日などは臭が一層強くこもつてむツとするところへ持つて来て、おもてのぬかるみを歩いたまゝで上つて来るから、猫の脚あとが此処彼処ここかしこに点々とする。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
近頃彼は、西瓜の荷をになって、江戸城の此処彼処ここかしこにたくさん働いている石置場の人足や、大工小屋の工匠こうしょうや、外廓そとぐるわの足場にいる左官などへ、西瓜を売ってあるいていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泥だらけな笹の葉がぴたぴたと洗われて、底が見えなくなり、水草の隠れるにしたごうて、船が浮上うきあがると、堤防の遠方おちかたにすくすくと立って白い煙を吐く此処彼処ここかしこ富家ふか煙突えんとつが低くなって
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
されど五重の塔の屋根には日向ひなた日陰ひかげといろいろにある故に、一処ひとところより解けむると思へば次第々々に此処彼処ここかしこと解けて、果てはどこもかも雫が落つるやうになりたりといふ意なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
吹来ふききたり、吹去る風は大浪おほなみの寄せては返す如く絶間無くとどろきて、そのはげしきは柱などをひちひちと鳴揺なりゆるがし、物打倒すひしめき、引断ひきちぎる音、圧折へしおる響は此処彼処ここかしこに聞えて、唯居るさへにきもひやされぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
されど、此処彼処ここかしこに往々急峻なる地隙、または峻坂なきにしもらず。
武士道の山 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
して見ると、「過ぎし日の事思出おもいいでて泣く、」といったりあるいは末節の、「われは此処彼処ここかしこにさまよう落葉おちば」といったのはやはり詩人の Jeux d'esprit(心の遊戯)であったのだ。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雨の日などはにおいが一層強くこもってむッとするところへ持って来て、おもてのぬかるみを歩いたままで上って来るから、猫の脚あとが此処彼処ここかしこに点々とする。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なほ稍明ややあかくその色厚氷あつこほりを懸けたる如き西の空より、隠々いんいんとして寂き余光の遠くきたれるが、にはかに去るに忍びざらんやうに彷徨さまよへるちまた此処彼処ここかしこに、軒ラムプは既に点じ了りて、新に白きほのほを放てり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そう云う別世界こそ、身をかくすには究竟くっきょうであろうと思って、此処彼処ここかしこといろいろに捜し求めて見れば見る程、今迄通ったことのない区域がいたところに発見された。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
百姓の仕事が暇になる季節にそれぞれ一座を組織して島の此処彼処ここかしこを打って廻る。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)