樹脂やに)” の例文
暫く歩かせた後、賊は己の衣服を剥いで、己をピニイの木の幹に縛り附けた。己の背は木の皮でこすられて、肌には樹脂やにねばり附いた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
材料に樹脂やにをひいた綱を用ひ、木油も少しはまぜるので、地球全體におそろしく惡臭が漂ひ、鼻の孔に栓をする必要が起る。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
オゾーンに充ちた、松樹脂やにの匂う冬の日向は、東京での生活を暗く思い浮ばせた。陽子は結婚生活がうまく行かず、別れ話が出ている状態であった。
明るい海浜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
松太郎は何がなしに生き甲斐がある樣な氣がして、深く深く、杉の樹脂やにの香る空氣を吸つた。が、霎時しばらく經つと眩い光に眼が疲れてか、氣が少し焦立つて來た。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
偃松はいまつ樹脂やにの香と、尾根越しに吹く風の触感と、痩せた肩にめり込むルックサックの革や、ボロボロな岩でブルブル慄える両足や、カンカラに乾いた咽喉や、天幕を漏る雨滴や
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
葡萄ぶどう畑や林の中に孤立していた。内部は破損していて、窓もよく合わさっていなかった。かびや、熟した果実や、涼しい影や、日に暖まった樹脂やに多い木立、などのにおいがしていた。
さうしてほのほちかそびえたすぎこずゑからえだけて爪先つまさきいた。たびすぎ針葉樹しんえふじゆ特色とくしよくあらはして樹脂やにおほがばり/\とすさまじくつてけた。屋根裏やねうらたけ爆破ばくはした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
樹脂やにのある木片や松脂まつやにに浸した繩屑なわくずを燃しています。ドーフィネの山地においても、すべてそのとおりです。彼らは一度に六カ月分のパンを作り、乾かした牛糞ぎゅうふんでそれを焼きます。
私たちは、それから、お父様とお母様にお手紙を書いて大切なビール瓶の中の一本に入れて、シッカリと樹脂やにで封じて、二人で何遍も何遍も接吻くちづけをしてから海の中に投げ込みました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
太陽は小屋の周りをぐるりと取巻いた樹立の上まで昇るとすぐ、開拓地へ強く照りつけて、もやをたちまちに飲み干してしまった。間もなく砂地は焼け、丸太小屋の丸太の樹脂やにが融け出した。
そういう暗澹たる空模様の中で、黒死館の巨大な二層楼は——わけても中央にある礼拝堂の尖塔や左右の塔櫓が、一刷毛はけ刷いた薄墨色の中に塗抹とまつされていて、全体が樹脂やにっぽい単色画モノクロームを作っていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
樹脂やににおいがしている。それに硫黄が手近だが
松太郎は、何がなしに生甲斐がある様な気がして、深く深く、杉の樹脂やにの香る空気を吸つた。が、霎時しばらく経つとまぶしい光に眼が疲れてか、気が少し、焦立つて来た。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
暑さで融けた樹脂やにのくっついた衣服を着て、あぶられるような思いをしながら坐っていて、自分の周りには血がたくさん流れているし、あたり中に死体がごろごろ横っているので、それを見ていると
米搗くとかゞる其手に何よけむ杉の樹脂やにとり塗らばかよけん
長塚節歌集:2 中 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
樹脂やにのある小枝で身をよろうて
涙は水ではない、心の幹をしぼつた樹脂やにである、油である。火が愈々燃え拡がる許りだ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
涙は水ではない、心の幹をしぼつた樹脂やにである、油である。火が愈々燃え擴がる許りだ。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)