本音ほんね)” の例文
あんたのやうに云つてしまへば、人間の本音ほんねは永久にわからないんです。覘ひを定めて物を云ふばかりが能ぢやありませんよ。
ママ先生とその夫 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
津田が小林に本音ほんねを吹かせようとするところには、ある特別の意味があった。彼はお延の性質をその著るしい断面においてよく承知していた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことばには立派に言って別れたものの、それは神ならぬ人間の本音ほんねではない。余儀ない事情に迫られ、無理に言わせられた表面のくちに過ぎないのだ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そうして、そのあとでやっぱり日本酒の方がいいと云って本音ほんねをはいたので大笑いになったことを覚えている。
海水浴 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私は話しているうちに自然にそうなるのでありますが、恥ずかしいと思わないで本音ほんねきたいのであります。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
たしかに駈引かけひきをしているにちがいないが、本音ほんねを吐かせるところまで捻伏せるつもりなら、こちらも、感情を編みだすところから、やらなくてはならない。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
けんきそわんとしているが——その好色なる彼をしていわせても、ほんとの、心の底を、男性の本音ほんねとしていわせたら、きっと、こう自白するにちがいない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ははあ、本音ほんねをふいたな」とヴィタリスがわらいながら言った。「それではくつがしいんだな。よしよし、わたしはやくそくをしよう。それも大きなくぎをそこに打ったやつをなあ。 ...
「ああ気の弱い男!」何処どこに自分が変っている、やはりこれが自分の本音ほんねだろう。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
庸三はそう言って、ぽつぽつ本音ほんねの憎悪の言葉を口にし初めた。そして最後に
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
、僕に返せと言うのかい。あっはっはっ、とうとう本音ほんねをはいたね。食事にもいけなかったり、また折角せっかくの殺人光線灯も役にたたなかったり、黒人が言うことをきかなかったりしたんでは、もう弱音を
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と親方が本音ほんねを吹いたので、大笑いになった。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
徐大盡じよだいじん本音ほんねいた唐辯たうべん
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
紀久榮は到頭本音ほんねを吐きました。
私は笑ひながら本音ほんねを吐いた。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
これが本音ほんねである。
易疑 (旧字旧仮名) / 内藤湖南(著)
愛嬌あいきょうに調子を合せるとは思えない。上皮の文明は破れた。中から本音ほんねが出る。悄然しょうぜんとして誠を帯びた声である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しいて本音ほんねを吐かせれば「……いやその両方だ。生きるからには婆娑羅に世をたのしみ、あわよくばまた、天下も取りたい」と、空嘯そらうそぶく者なのかもしれない。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本音ほんねなら、それがあなたの憂鬱の原因なのよ。見抜いたみたいなことを言うようだけど、あなたの神経衰弱ノイローゼは、生活のなかに、大切なものが足りないせいなの。精神を高めて、生きて行く張りあいを
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それから本音ほんねきました。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこをたたかせてもらって局部から自然に出る本音ほんねを充分にく事は、津田と打ち合せを済ました訪問の主意でも何でもなかったけれども、お延自身からいうと
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、三人は、手を振りあったが、悪党性の深い者ほど、実は、たえ間なき死に際のおもいにかれ、折あれば、あわれな人間本来の本音ほんねを聞いてもらいたいのであった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうですか、ただそれだけで疎遠になったんですか。それがあなたの本音ほんねですか」という詰問はこの時すでに無言の文句となって彼の腹の中にかくれていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれど、これだけではまだ、秀吉の本音ほんねとしては、皮相ひそうである。ここまでのことをいってしまえば、かれは必ず、次のことばを、そのあとに云い足したいとするであろう。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
代助に取つて不思議とも思はれるのは、平岡がう云ふ状態に陥つた時が、一番平岡と議論がしやすいと云ふ自覚であつた。又酒を呑んで本音ほんねかうか、と平岡の方からよく云つたものだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と、いわゆる膝詰ひざづめに、宗治の本音ほんねを押してみた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)