暗涙あんるい)” の例文
……驚いて、弱って、暗涙あんるいを拭い拭い立ちすくんでいる私の手を引いて、サッサと扉の外に出ると、重い扉を未練気もなくピッタリと閉めた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
谷中やなか知人ちじんいゑひて、調度萬端てうどばんたんおさめさせ、此處こゝへとおもふに町子まちこ生涯せうがいあはれなることいふはかりなく、暗涙あんるいにくれては不徳ふとくおぼしゝるすぢなきにあらねど
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
互いに暗涙あんるいむせびけるに、さはなくて彼女は妾らの室をへだつる、二間けんばかりの室に移されしなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
かんがへると、無限むげん悲哀かなしくなつて、たゞ茫然ぼうぜん故國こゝくそらのぞんで、そゞろに暗涙あんるいうかべてとき今迄いまゝで默然もくねんふか考慮かんがへしづんでつた櫻木大佐さくらぎたいさは、突然とつぜんかほげた。
そして若しその気持が捨て去ったまゝ再び後になって戻って来るものなら戻っても来よ、戻らざれば、それも是非なしと、暗涙あんるいを催しながら思い切って徳の外に抛ってしまうのでした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は昔風な父のあまりに律儀な意地強さにちょっと暗涙あんるいを催したのであった。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これが大ぜいの若者たちを自由自在に操縦もし叱咜しったもしたあの気嵩きかさで美しく張のあった母かと、呆れもし暗涙あんるいむせびながら、身震いが出るほど嫌味なものを感じますが、粗末にはできません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)