あま)” の例文
遮ぎる雲の一片ひとひらさえ持たぬ春の日影は、あまねく水の上を照らして、いつの間にかほとぼりは波の底までみ渡ったと思わるるほど暖かに見える。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先づ雲に隱れた巨人のかしらを染め、ついで、其金色の衣を目もくらめく許に彩り、軈て、あまねく地上の物又物を照し出した。朝日が山の端を離れたのである。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
私はこの意味において田辺、小倉両博士のごときと相通ずる幾百幾千の論説が書かれて、その声を社会にあまねからしめんことを切望して止まないのである。
社会事情と科学的精神 (新字新仮名) / 石原純(著)
一気に繁昌はんじょうおもむいたが、もとよりあまねく病難貧苦を救うて現安後楽の願ひを成就じょうじゅせんとの宗旨しゅうしであれば、やがて江州ごうしゅう伊吹山いぶきやまに五十町四方の地をひらいて薬草園となし
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
然れどもすべて是等の変遷を貫ぬける一条の絃の存するあるは、識者のあまねく認むるところなり。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
文明の教育稍々ややあまねしといえども、中年以上のおもなる人は迚も洋学の佳境に這入はいることは出来ず、なんか事をはかり事を断ずる時には余儀よぎなく漢書を便たよりにして、万事ソレから割出すと云う風潮の中に居て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
駒籠長元寺中の石に刻まれてゐて、世人のあまねく知る所のものは前者である。歿日は十月十八日、年は六十七、病の「風痹」であつたことは漁村の文に見えてゐる。二子三女があつて、長子は夭した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
各家庭にあまねからしめた
先づ、雲に隠れた巨人のかしらを染め、ついで、其金色の衣を目もくらめばかりに彩り、やがて、あまねく地上の物又物を照し出した。朝日が山の端を離れたのである。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
最近には科学者として世界にあまねく知られていたロード・ラザフォードや、サー・ジョセフ・ジョン・タムソンが同じくここに葬られる栄誉をにないました。
ロード・ラザフォード (新字新仮名) / 石原純(著)
尽十方じんじっぽうに飛びわす小世界の、あまねく天涯てんがいを行き尽して、しかも尽くる期なしと思わるるなかに、絹糸の細きをいとわず植えつけしかいこの卵の並べるごとくに、四人の小宇宙は
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頑迷にして局量狭き宣教師的基督教思想の我国に益せしことのすくなきは、世の人のあまねく認むるところ、法政経済等の諸科学は、未だ以て我国の未来の運命を確固にしたりとは言ふべからず。
一種の攘夷思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)