)” の例文
拾って見れば、白絹しらぎぬのハンケチで、縁を紫で縫ったものだ。お光は何思ったかそっと頬をでて見て、懐にしまった。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
縄を解き、懐中ふところよりくし取りいだして乱れ髪けと渡しながら冷えこおりたる肢体からだを痛ましく、思わず緊接しっかりいだき寄せて、さぞや柱に脊中がと片手にするを、女あきれて兎角とかくことばはなく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
石橋を渡りて動物園の前へで、車夫には「先へ往ッて観音堂の下辺したあたりに待ッていろ」ト命じて其処から車に離れ、真直まっすぐに行ッて、矗立千尺ちくりゅうせんせきくうでそうな杉の樹立の間を通抜けて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ただ一叢ひとむらの黄なる菜花なのはなに、白い蝶が面白そうに飛んで居る。南の方を見ると、中っ原、廻沢めぐりさわのあたり、桃のくれないは淡く、李は白く、北を見ると仁左衛門の大欅おおけやきが春の空をでつゝ褐色かっしょくけぶって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
殿ふたたびお出ましの時には、小刀を取って、危気あぶなげ無きところをずるように削り、小々しょうしょう刀屑かたなくずを出し、やがて成就のよしを申し、近々ご覧に入るるのだ。何の思わぬあやまちなどが出来よう。ハハハ。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
仁左衛門さんとこ大欅おおけやきが春の空をでて淡褐色たんかっしょくに煙りそめる。雑木林のならが逸早く、くぬぎはやゝ晩れて、芽をきそめる。貯蔵かこい里芋さといもも芽を吐くので、里芋を植えねばならぬ。月の終は、若葉わかば盛季さかりだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)