悶掻もが)” の例文
猿は殺されることかと思って、苦叫絶叫して悶掻もがいたけれど、米友はらしめるだけで、事実殺す気はなかったものらしくあります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
与右衛門はそれを見ると背負っていた豆を投げ捨てるなり、河の中へ飛び込んで悶掻もがきながら流れて往く累を荷物ぐるみ水の中へ突きこんだ。
累物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
死ぬ刃も持たないので、それに悶掻もがこうともしなかった。黒髪をなでて、宵闇となった室の中に、きちんと坐っていた。
力の限り悶掻もがけども、更にそのせんなきのみか咽喉のどは次第にしばり行きて、苦しきこといはんかたなし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
その紫色の帯のところまでは、かろうじて見えるが、それから上は、見ようとして、いくら身を悶掻もがいても見る事が出来ない、しかもこの時は、非常に息苦しくて、眼はひらいているが
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
悶掻もがく所を乗掛って
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
万戸は愛卿の顔を赤濁あかにごりのしたいかつい眼でじっと見ていたが、いきなり抱きかかえて一室の中へ入って往った。愛卿はもう悶掻もがくのをやめていた。
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と思って一瞬、色蒼いろあおざめたが、九叔が悶掻もがきながらも「早く、かごでも戸板でも呼んでくれ。家へ帰って養生したい」と叫ぶので大慌おおあわてに人を頼んで、九叔を家へ送らせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
矢比やごろを測つてひょうと放てば。竄点ねらい誤たず、かれが右のまなこ篦深のぶかくも突立つったちしかば、さしもにたけき黄金丸も、何かはもってたまるべき、たちま撲地はたと倒れしが四足を悶掻もがいてしんでけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ののしり叫ぶ声がそこにも起って黒い人影が入り乱れた。あから顔の大きな男が悶掻もがき走るように店の中から飛びだして来た。それは山路の主人であった。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
男と女の持ち合う感動とはおよそどんなものかということは、彼自身も、柳生の庄の旅籠屋はたごやの小茶ちゃんと、馬糧小屋まぐさごやわらの中でなんというわけもわからずに悶掻もがき合った体験がある。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四足を床に縛られた大きな白猿が、敵と見て起きあがろうとしたが、練絹の中に麻縄があるので、引切る事ができないで、眼を電光のように怒らして悶掻もがいた。
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「女房、罪なことをしたな。じつあ、おれの悶掻もがきは仮病けびょうなのさ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
網の中にはおおきな甲羅をした蟹が入っていて、それが紫色の鋏をあげて逃げようとでもするように悶掻もがいていた。彼にはこれまでかつて一度も見たことのない蟹であった。
荷花公主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女房は身を慄わして逃げようと悶掻もがいた。益之助は抱きすくめて離さなかった。
宝蔵の短刀 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女の子は恥かしそうな顔をして体を悶掻もがいた。王はその手をゆるめなかった。
蘇生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
喬生は金蓮の手を振り放そうと悶掻もがいたが、どうしても放れなかった。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
喬生は金蓮の手を揮り放そうと悶掻もがいたが、どうしても放れなかった。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主人は仰向けになったり俯向けになったりして悶掻もがき苦しんだ。
蛇怨 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小供はまたこう叫びながら、体を悶掻もがいて畳の上を転げ廻った。
八人みさきの話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
大異は苦痛に耐えられないで体を悶掻もがき悶掻きその辺を這った。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)