なやま)” の例文
旧字:
此の色目で男をなやましたかとお村をズタ/\に斬り、われは此の口で文治郎に悪口をいたかと嬲殺なぶりごろしにして、其の儘脇差をほうり出し
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
工場の事務所からは、其筋の怠慢たいまんを責める様に、毎日毎日警察署へ電話がかかった。署長は自分の罪ででもある様に頭をなやました。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それとこれと因縁の糸が連絡しているかうか、それもまた疑問である。巡査もの解釈については大いに頭をなやました。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのペラウルの描いたヴィーナスのなやましいまでの美しさを、この赤星ジュリアが持っているように感じた。それはどこか日本人ばなれのした異国風の美しさであった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それで二年の三学期になると、誰もが真剣になって、研究実験の選択に頭をなやますのであった。
裾から貴婦人の足をおさえようとするから、ええ、不躾ぶしつけな、あねなやます、やまいの鬼と、床の間に、重代の黄金こがねづくりの長船おさふねが、邪気を払うといって飾ってあったのを、抜く手も見せず
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは、恋の眸ではないのか、ただ上部だけで私の心をなやまし焼きつくしても、その底には少しも温味も慈悲もない偽のまどわしの眸であったのかと、私は思い迷うようになりました。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私は見分記や『遊覧志』の文を読んで頻りに頭をなやましている間に、なぜ幾度となく目を通した『山嶽志』の此記事に早く想い到らなかったかと、其迂闊うかつさを思うて苦笑せずにはいられなかった。
なやましけ人妻ひとづまかもよぐ船の忘れは為無せないやひ増すに (同・三五五七)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
散々に自分の心をなやました久しい古い問題です。私は白状します。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浅草寺せんそうじの十二時の鐘の音を聞いたのはもう半時はんとき前の事、春の夜はけて甘くなやましく睡っていた。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
疲労と空腹とはいよいよ我をなやまして来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)