せは)” の例文
寝息が段々せはしくなつて行く様な気がする。一分、二分、三分、……佐久間の眼は依然として瞬きもせず半分開いて居る。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
平次はせはしく袷を引つかけると、部屋の外へ飛出しました。左手には有明の行燈を提げて、曲者の通つたらしい道を、めるやうに進んで行きます。
朝顔あさがほの花が日毎ひごとに小さくなり、西日にしびが燃えるほのほのやうにせま家中いへぢゆう差込さしこんで来る時分じぶんになると鳴きしきるせみの声が一際ひときは耳立みゝだつてせはしくきこえる。八月もいつかなかば過ぎてしまつたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
瓦斯ガスの火せはに燃ゆる下に寄りつどふたる配達夫の十四五名、若きあり、中年あり、稍々やゝ老境に近づきたるあり、はげたる飛白かすりに繩の様なる角帯せるもの何がし学校の記章打つたる帽子
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
東京より以西横浜、名古屋、大阪、神戸、それから紀州、ずつと飛んで熊本に亙つた犯跡の捜査にせはしかつた捜査官は、多少の病体をも斟酌することなしに取調を進めなければならなかつた。
逆徒 (新字旧仮名) / 平出修(著)
せはしく督促すれば出さぬこともないが、出て來た子供は中途半端から聞くのだから教師の言ふことが薩張さつぱり解らない。面白くもない。教師の方でも授業が不統一になつて誠に困る。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「うむ、玉水三郎たまみづさぶらう………。」ひながらせはしなく懐中ふところから女持をんなもち紙入かみいれさぐり出して、小さな名刺を見せ、「ね、玉水三郎たまみづさぶらう。昔のきちさんぢやないぜ。ちやんともう番附ばんづけに出てるんだぜ。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
飛付くやうにお吉の繩尻を引つたくつて、せはしく解きにかゝると
おのがじし、いとせはしげに
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)