ほの)” の例文
四邊はしんと靜まり返つてゐて、雨はもう止んでゐた。空には、形もない、色もない雲が、明状し難いほのめく光りを包んでゐるやうに思はれた。
ともすれば置き忘れたその青玉のひとみほのかなタナグラ人形の陰影かげから小さな玉虫の眼のやうに顫へて、絶えず移り気な私の心を気遣はしさうに熟視みつめる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかし雪江の詩に「酒家蕭索遊人少。」〔酒家蕭索トシテ遊人ク〕といい、「雲際有時微吐月。」〔雲際時有リテほのカニ月ヲ吐ク〕というが如き句がある。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あざやかなべに滴々てきてきが、いつの雨に流されてか、半分けた花の海はかすみのなかにはてしなく広がって、見上げる半空はんくうには崢嶸そうこうたる一ぽう半腹はんぷくからほのかに春の雲を吐いている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小坊主がちょこちょこと歩んで来て、人の寝息を窺ったのを、ほのかに知っている、眼を覚ますと、スーッと白い霧の中へと飛んで、羽ばたきの影が、焚火に映ったようだ。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ただ空の一角、私たちの行く手に当って青空が僅にほのめいているだけである。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
博士の歩みたまいし寂しき路を辿たどり行かんとするわが友よ、私はこの一句を口吟くちずさむとき、ひげまばらな目の穏やかな博士の顔がまざまざと見え、たとえば明るい——といっても月の光でほの白い園で
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ほのかに見える宝物が所狭ところせきまで置いてある。
ほのかなる幻燈のゆめのごとく、またまちの射影をうつす。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほのかに匂ふ綿くづのそのほこりこそゆかしけれ。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほのかな日光のきんを投げかくる雨。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほのにいまこほろぎける。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほのになほこほろぎける。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほのかに消えゆくゆめあり
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほのかだ
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)