御坂みさか)” の例文
あたらしく力を得て、とにかくこれを完成させぬうちは、東京へ帰るまい、と御坂みさか木枯こがらしつよい日に、勝手にひとりで約束した。
I can speak (新字新仮名) / 太宰治(著)
最も古い交通路として知られた木曾の御坂みさかは今では恵那山につづく深い山間やまあいの方にうずもれているが、それにちなんでこの神坂村の名がある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ふと、その空気の圧迫と、怪しい鳥の落ちて来る鳴き声に、過ぎにし武州御岳山のきり御坂みさかの夜のことが、彼の念頭を鉛のように抑えて来ました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
南アルプスは望めなかったが、北から東の方にかけて御坂みさか秩父の連山、南は駿河湾まで一目に見られた。青木ヶ原の大森林も眼下に黒く展開している。
春の大方山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それは御坂みさか山脈のあたりから発生した上昇気流が、折からの高温にはぐくまれた水蒸気を伴って奔騰ほんとうし、やがて入道雲の多量の水分を持ち切れなくなったときに俄かにドッと崩れはじめると見るや
(新字新仮名) / 海野十三(著)
西北に聳え立つ御坂みさか山脈に焼くような入日をさえぎられて、あたりの尾根と云い谷と云い一面の樹海は薄暗うすやみにとざされそれがまた火のような西空の余映を受けて鈍くほの赤く生物いきものの毒気のように映えかえり
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
御坂みさか十曲とまがりと」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雌雄めをたき鯉岩烏帽子岩ゑぼしいはなどあり飯田とかへ通路ありとて駄荷多くつどひて賑し左れど旅人りよじんなどは一向になし晝の宿に西洋人二人通辯ボーイ等五六人居たるのみ此峠は木曾の御坂みさかと歌にも詠む所にて左のみ嶮しからず景色穩やかにてよしいにしへ西京よりあづまへ向ひて來んには此の峠こそ木曾にるは
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
晴れにもよく雨にもよい恵那山えなさんに連なり続く山々、古代の旅人が越えて行ったという御坂みさかの峠などは東南にそびえて
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その笛吹川沿岸の村々を隔てて、甲武信こぶしたけから例の大菩薩嶺、小金沢、笹子、御坂みさか、富士の方までが、前面に大屏風おおびょうぶをめぐらしたように重なっています。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで地図を物色する、丹沢、道志、御坂みさか山脈の諸山は、惜しいかな高度が低い、奥上州の山は交通の不便からてんで問題にならなかった、残るは秩父山地のみである。
初めて秩父に入った頃 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
昨年、九月、甲州の御坂みさか峠頂上の天下茶屋という茶店の二階を借りて、そこで少しずつ、その仕事をすすめて、どうやら百枚ちかくなって、読みかえしてみても、そんなに悪い出来ではない。
I can speak (新字新仮名) / 太宰治(著)
紫紺の肌美しき道志どうし御坂みさかの連山の後から、思いも懸けぬ大井川の奥の遠い雪の山がソッと白い顔を出して、このほこらかな文化の都を覗いていることさえも珍しくはない。
冬の山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
随神門ずいしんもんを入って、きり御坂みさかを登り、右の小径こみちを行くと奥の宮七代ななよの滝へ出る道標があります。
その廊下の位置からは恵那山につづく幾つかの連峰全部を一目に見ることはできなかったが、そこには万葉の古い歌にある御坂みさかも隠れているという半蔵の話が客をよろこばせた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大幡八町峠の北に続く本社ヶ丸が特有の尖頂をもたげて、三峠との間に御坂みさか峠の西に在る黒岳を擁し、北に向っては笹子川を隔てて、これも特異の尖頂をそびやかした滝子山と相対している。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そっと山へ登り、きり御坂みさかで竜之助に会ったとき着ていたのもこの袷。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところどころ日のさしている富士川のながれが脚の下に俯瞰されるのみで、午下ひるさがりの空には積雲がむくむくと湧き上り、富士川を始め御坂みさか山塊や天子てんし山脈の山という山は、既に雲に掩われていた。
例せば西湖の北方に連亙れんこうせる御坂みさか山塊の節刀せっとう岳は、大将軍にも刀にも少しの関係もないセットウ即ち小鳥のホオジロの方言から出た名であるというし、又飛信越三国界の蓮華岳一名三俣岳は
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
坂は繰り返して述べたように上り下りの路をいうものであるが、其ままそれが峠の名となって残ることは有り得る。木曾の神坂みさか、甲州の御坂みさかなどは其例で、峠の字は後になって添えられたものであろう。
(新字新仮名) / 木暮理太郎(著)