張交はりまぜ)” の例文
小倉是阿弥の茶室の張交はりまぜになっていた紀行が果してこの遊を叙したものであったなら、一行には女も二三人加わっていたはずである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
張交はりまぜふすまには南湖なんこだの鵬斎ぼうさいの書だの、すべて亡くなった人の趣味をしのばせる記念かたみと見るべきものさえもとの通りり付けてあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
招き猫なぞが飾って有るので、何も褒めようが有りませんから、二枚おりの屏風の張交はりまぜを褒めようと思って見ると、團十郎だんじゅうろう摺物すりものや会のちらしが張付けて有る中に
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二階のふすまに半紙四ツ切程の大きさに複刻した浮世絵の美人画が張交はりまぜにしてある。その中には歌麻呂のあわび取り、豊信とよのぶの入浴美女など、かつてわたくしが雑誌此花このはな挿絵さしえで見覚えているものもあった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
時計の右が壁で、左が袋戸棚ふくろとだなになっていた。その張交はりまぜ石摺いしずりだの、俳画だの、扇の骨を抜いたものなどが見えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
美「なに、あれはいけないのですよ、張交はりまぜが足りないから何でも安どんが出せと云いましたから、反古ほごの中に皺くちゃになって居たのですが、あれはわちきのおとっさんが書きましたので」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
時計とけいみぎかべで、ひだり袋戸棚ふくろとだなになつてゐた。その張交はりまぜ石摺いしずりだの、俳畫はいぐわだの、あふぎほねいたものなどがえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私はこの眼鏡と共に、いつでも母の背景になっていた一間いっけんふすまおもす。古びた張交はりまぜうちに、生死事大しょうじじだい無常迅速むじょうじんそく云々と書いた石摺いしずりなどもあざやかに眼に浮んで来る。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二階の梯子段はしごだんは、母の大眼鏡と離す事のできない、生死事大しょうじじだい無常迅速むじょうじんそく云々と書いた石摺いしずり張交はりまぜにしてあるふすまの、すぐうしろについているので、母は私の声を聞きつけると、すぐ二階へ上って来てくれた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)