廉潔れんけつ)” の例文
江戸時代の武家は、こと/″\く武藝が出來て、剛直で、廉潔れんけつで、庶民の龜鑑かゞみになるものばかりであつたと思つたら、それは大變な間違ひです。
生きて立つ名分があろう。——気を小さく持てば、腹を掻っ切って自己の廉潔れんけつを示す道一つが残されているだけである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
部下の諸将がつぎつぎに爵位しゃくい封侯ほうこうを得て行くのに、廉潔れんけつな将軍だけは封侯はおろか、終始変わらぬ清貧せいひんに甘んじなければならなかった。最後に彼は大将軍衛青えいせいと衝突した。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
アウエリヤヌヰチはドクトルの廉潔れんけつで、正直しやうぢきるのはかねてもつてゐたが、しかれにしても、二萬ゑんぐらゐたしか所有もつてゐることゝのみおもふてゐたのに、くといては
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
藩にて廉潔れんけつの役人と称し、賄賂わいろ役徳をば一切取らずとて、人もこれを信じみずからこれを許す者あれども、町人がこの役人へ安利やすりにて金を貸し、またはわざ高利こうりにてその金を預り
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
お政如き愚痴無知の婦人に持長もちちょうじられると云ッて、我程おれほど働き者はないと自惚うぬぼれてしまい、しかも廉潔れんけつな心から文三が手を下げて頼まぬと云えば、ねたそねみから負惜しみをすると臆測おくそくたくましゅうして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
といえば、もちろん弱いという意味にも用いらるるが、またしばしば柔和にゅうわで従順で廉潔れんけつなるの意を含ませて使つかわるることもある。漢字を見ても好(このむ)、妥(しずか)などは善い意味である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
意義なき体面にわずらわされ、虚名のために齷齪あくせくしているのに比して、裏長屋に棲息している貧民の生活が遥に廉潔れんけつで、また自由である事をよろこび、病余失意の一生をここに隠してしまったのである。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
アウエリヤヌイチはドクトルの廉潔れんけつで、正直しょうじきであるのはかねてもっていたが、しかしそれにしても、二万えんぐらいたしか所有もっていることとのみおもうていたのに、かくといては
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)