床店とこみせ)” の例文
裏店住居の次郎吉や、床店とこみせ同様の白雲堂が、自分の家に隠しておくことはむずかしい。彼等のほかに共謀者が無ければならない。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この娘がたまと云う子で、母親がなくて、親爺おやじと二人暮らしでいると云う事、その親爺は秋葉あきはの原に飴細工あめざいく床店とこみせを出していると云う事などを知った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
モルガンは花の市のように、種々いろいろな花があって、花売りの床店とこみせが一町もつづいている、足高路あしだかみちの方へお雪を伴った。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
どこか場末の床店とこみせが、指のさきで、そっとクリームをいてで広げて息で伸ばして、ちょんぼりと髯剃あとへ塗る手際などとは格別の沙汰で、しかもその場末より高くない。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雷門から仁王門までの、今日の仲店なかみせの通りは、その頃はごく粗末な床店とこみせでした。
共同で床店とこみせを出しているおでんやの一人は、昼間はある私立大学の文科へ通っている、町の文学青年だったが、能登のとの産まれで、葉子とはすでに裏町の女王とナイトのような関係になっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかもその多くは床店とこみせのようなもので、それらは日が暮れると店をしまって帰るので、あとは俄かにさびしくなって、人家の灯のかげもまばらになる。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
床店とこみせ筋向すじむこうが、やはりその荒物店あらものみせでありますところ戸外おもてへは水を打って、のき提灯ちょうちんにはまだ火をともさぬ、溝石みぞいしから往来へ縁台えんだいまたがせて、差向さしむかいに将棊しょうぎっています。はし附木つけぎ、おさだまりの奴で。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御成道の横町で古道具屋をたずねると、がらくたばかりならべた床店とこみせ同様の狭い家で、店の正面にすすけた帝釈たいしゃく様の大きい掛物がかかっているのが眼についた。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
銀座のきゅう日報社の北隣きたどなり——今は額縁屋がくぶちやになっている——にめざましと呼ぶ小さい汁粉屋しるこやがあって、またその隣に間口二けんぐらいの床店とこみせ同様の古本店があった。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)