帷幄いあく)” の例文
春来しゅんらい、国事多端、ついに干戈かんかを動かすにいたり、帷幄いあくの士は内に焦慮し、干役かんえきの兵は外に曝骨ばっこつし、人情にんじょう恟々きょうきょう、ひいて今日にいたる。
中元祝酒の記 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
弘化元年、藩主斉昭が幕府の譴責けんせきにあって隠居謹慎を命ぜられ、その帷幄いあくの士たる藤田彪(東湖)、戸田忠敞ら一派が罪せられた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
主脳者であった婦人が死んだ後も、団体は解散せず明治時代帷幄いあく政治で名のあった女流を会長にしたりして、次第に社会事業など企てて来た。
一本の花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
血が血だけに胡風こふうになじむことも速く、相当の才物でもあり、常に且鞮侯そていこう単于ぜんう帷幄いあくに参じてすべての画策にあずかっていた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
天皇の帷幄いあくのうちで、討幕の準備が、着々、運ばれている。しかも、それが実行に移る時機は眼の前に来ている——、という密告だったのだ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは結構です。面従めんじゅうちゅうにあらず。もっとこっちへおよりなさい。はかりごと帷幄いあくの中にめぐらして勝ちを千里の外に決しようではありませんか」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
天子の正朔せいさくを奉ぜず、あえて建文の年号を去って、洪武三十二年と称し、道衍どうえん帷幄いあくの謀師とし、金忠きんちゅう紀善きぜんとして機密に参ぜしめ、張玉、朱能、丘福きゅうふくを都指揮僉事せんじとし
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その時にあたって、足利将軍家の執事ともあるべきものが物狂わしいこの有様では、なんびとが将軍の帷幄いあくに参じて敵軍掃蕩の大方針を定める者があろうか。諸人の不安は実にここにあった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
帝の帷幄いあく開張せらる。
自分は松山で茂庭周防すおうどのから、およその事情を聞いている。貴方が一ノ関の帷幄いあくにはいって、内部からその非謀を破却する。
張良は、はかりごと帷幄いあくの中にめぐらして、勝ちを千里の外に決し、蕭何は国家の法をたてて、百姓をなずけ、治安を重くし、よく境防を守り固めました。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……冬の陣には直孝の帷幄いあくにあった源七郎は、このたびは右翼の部将となり、二百余人の兵をあずかって陣頭に立った。
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かねて天皇帷幄いあくの秘臣とにらまれていた大納言宣房、洞院とういん実世さねよ、侍従の中納言公明、烏丸からすま成輔なりすけなど、みなその自邸で寝込みをおそわれ、一網打尽に、捕縛された。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやそれ以上なんだよ、頭数、それは老人だけじゃない、少将の帷幄いあくぜんたいが、そのために今やっきとなっている」
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
第一に、討幕の主謀を、天皇とはいっていず、帷幄いあくとしていることだった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逢春門院ほうしゅんもんいんの御助言もかなわぬと聞きまして、これは敵の帷幄いあくへ一と矢射こむほかはないと考え、それには久世侯がもっともよしと思ったのです」
祈祷の首魁しゅかいも文観僧正だし、また常に、みかどの帷幄いあくに隠れて、東伐とうばつの謀議にあずかり、諸山の僧兵をして、みかどの御野望にくみさせんと、策しておる黒衣こくいの軍僧こそは、文観その人である、と
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おまえがもしおれの帷幄いあくにいれば、おれにもっとも近しい者として、おれの寵臣ちょうしんとして、家中の怨嗟えんさはおまえに集まるだろう、——おれはそうしたくなかった
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「その人がくさいんです、もっとその男の口を割らないとわからないが、どうやら朱雀事件の首謀はその人の帷幄いあくにあるらしい、そんなような口ぶりでしたよ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また幕府が水戸老公を帷幄いあくへ迎えようとする事実を考えると、そういう懸念が強く感じられるんだ、そして、ここから推考すると、そうした懸念は幕府ひとりでなく
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
宗之助が国老就任の場合その帷幄いあくに入る者らしく、帰るとすぐ脇田家に詰めて出入りとも宗之助から離れず、城中での記簿検閲にもこの三人が補助の役をするようになった。
彩虹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
六代将軍となった家宣いえのぶ(甲府侯)と、その帷幄いあくの人々の、すばやい、果断な処置によって、柳沢系の勢力は、巧みに骨抜きにされ、もはや、なにをする余力も、無くなっていたのであるが。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)