小耳こみみ)” の例文
のみならず彼が二三日うちに、江戸を立って雲州うんしゅう松江まつえおもむこうとしている事なぞも、ちらりと小耳こみみに挟んでいた。求馬は勿論喜んだ。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
内の職人どもがことばを、小耳こみみにして居るさへあるに、先刻さっき転んだことを、のあたり知つて居るも道理こそ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とひとりごとのようにいいました。するとそれを玄関先げんかんさきっていた宗任むねとう小耳こみみにはさんで、あと義家よしいえ
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
わたくしの父は、生前文部省の役人で一時帝国大学にも関係があったので、わたくしは少年の頃から学閥の忌むべき事や、学派の軋轢あつれきの恐るべき事などを小耳こみみに聞いて知っていた。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そうかと思うと、ふところから汗によごれた財布を出して、半月分の月給がはいっているのを確かめてにっこりした。二円あればたくさんだということはかねてから小耳こみみにはさんで聞いている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
シカモ女に縁のなさそうな薄汚うすぎたないつらをした男が沼南夫人の若いつばめになろうとは夢にも思わなかったから、夫人の芳ばしくない噂を薄々小耳こみみに入れてもYなぞはテンから問題としなかった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
伊那丸いなまるはふたりの話を小耳こみみにはさんで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
革命ぜんだったか、革命後だったか、——いや、あれは革命前ではない。なぜまた革命前ではないかと言えば、僕は当時小耳こみみはさんだダンチェンコの洒落しゃれを覚えているからである。
カルメン (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんでも安達あだちはら黒塚くろづかにはおにんでいて人をってうそうだなどという、たびあいだにふと小耳こみみにはさんだうわさをきゅうおもすと、体中からだじゅう毛穴けあながぞっと一つようにおもいました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)