小憎こにく)” の例文
余裕よゆう綽々しゃくしゃくとした寺田の買い方にふと小憎こにくらしくなった顔を見上げるのだったが、そんな時寺田の眼は苛々いらいらと燃えて急にいどかかるようだった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
小憎こにくいぐらいに巧みに使う旨味うまみはここだなと感服しつつ、これで盗賊なんだから呆れたものさと、自分の盗賊なることを忘れて考えこみました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうしたもんだ、他人ひとのこと使つかつて小憎こにくらしいこと、そんなことふとおつけてつから」おつぎはいぶつたたきゞかね博勞ばくらうちかくへした。かね博勞ばくらうあわてゝ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「いつでもいいさ。桀紂けっちゅうと云えば古来から悪人としてとおものだが、二十世紀はこの桀紂で充満しているんだぜ、しかも文明の皮を厚くかぶってるから小憎こにくらしい」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
がちゃんと、たいへんな音がして、コーヒー茶碗の皿がたくさんの小片こぎれに分れて、あたりに飛びちった。茶碗の方は、小憎こにくらしくも、把手とってが折れたばかりだった。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼等が、そういう場所として、世間に知られた家を、態と避けた心遣いが、一層小憎こにくらしく思われた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
余りにそのきたるがごとく、目に微笑をさえ含んで、澄まし返った小憎こにくらしさに、藩主が扇子をもってポンと一つ頭を打つや、さっと立って、据腰すえごしに、やにわに小刀ちいさがたなに手を掛けて
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蓮見はそれが小憎こにくらしいやうな気もした。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
やあ小憎こにくきおのれが大將面たいしやうづら
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小憎こにくいほどな早芸はやげい、向こうへすまして歩きだしてゆくふたりの人聞があった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御酒ごしゅを下された席において、明智どのばかりいつものように冷静なおもてを澄まして、興じ入る乱酔らんすいの徒をながめていたのを、右大臣家のお癖として、却って、ちと小憎こにくおぼされてか、光秀飲めと
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)