尋常事ただごと)” の例文
一大尉一特務曹長そうちょうが軍法会議に廻されたという明日発表される軍憲の移動を話して、こういう重職の交迭は決して尋常事ただごとではない。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「けさ私が大工と一緒に部屋を調べたときには、何もかもみな乾燥していましたが……。どうも尋常事ただごとではありませんね。おや!」
洗濯板のようになった肋骨あばらぼね露出こっくりだいてヒョックリヒョックリと呼吸いきをするアンバイが、どうやら尋常事ただごとじゃないように思われて来ました。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と小宮山は、金の脈を掘当てましたな、かねての話が事実となったのでありますから、そぞろに勇んだので乗出しようが尋常事ただごとでありませんから
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも日を経るにしたがって、蛙は一匹に止らず、二匹三匹と数増して、はては夜も昼も無数の蛙が椽に飛び上り、座敷に這込むという始末に、一同も尋常事ただごとでないと眉を顰め
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その御様子をみてマリヤは、何かは知らず尋常事ただごとでなき悲哀がイエスの身をつつみ、死の悩みとも言うべきイエスの心をおさえていることをば、若き女性の愛の直感をもって感じた。
目をみはって、その水中の木材よ、いで、浮べ、ひれふって木戸に迎えよ、とにらむばかりにみつめたのでござるそうな。尋常事ただごとでありませんな。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口の中に真黒い血が一とかたまり泌み出いておる処を見ると、これは尋常事ただごとじゃないと気が付いたけに、今日がきょうまで世間の噂を探りおったものじゃがなあ
ある伯爵家の裏門の前で俥を停めさせて、若干そこばくの代を取らすや否や周章あわてて潜門くぐりの奥深く消えたという新聞は尋常事ただごとならず思われて、噂は忽ち八方に広がった。
内には女中と……自分ばかり、(皆健康か。)は尋常事ただごとでない。けれども、よもや、と思うから、その(皆)を僻耳ひがみみであろう、と自分でも疑って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
皆さん、なんと思し召す? こりゃ尋常事ただごとじゃありませんぜ。ばかを見たのはわれわれですよ。全くけ落ちですな。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尋常事ただごとじゃあねえ、第一また万に一つ何事もないにした処が、心持が悪いじゃあねえか、宵啼なんていやなものだ、ほんとうにどうにかしようじゃあねえか。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親方というのはなまずの伝——どうですさわぎの卵じゃありませんか、尋常事ただごとじゃアありますまい。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも見知合いで、不断は、おい、とっさんか、せいぜい近小父、でも、名より、目の方へ、見当をつける若いものが、大師匠、先生は……ちょっと、尋常事ただごとではないでしょう。
むむ、いや、かさねがさね……たといキリシタンバテレンとは云え、お宗旨までは尋常事ただごとではない。この事、その事。新蕎麦に月はさぬが、やみは、ものじゃ、冥土の女房に逢うおもい
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや、名にし負う倶利伽羅で、天にも地にもただ一人、三造がこの挙動ふるまいは、われわれ人間としては尋常事ただごとではない。手に汗を握る一大事であったが、山に取っては、いなごが飛ぶほどでもなかろう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうなるのだろう……とにかくこれは尋常事ただごとじゃない。」
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……広縁をこのていは、さてさて尋常事ただごとではない。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(ああ、これは尋常事ただごとでない。)
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)