子爵ししゃく)” の例文
彼処に、林子爵ししゃくが持っていた別荘を、此春譲って貰ったのだが、此夏美奈子みなこが避暑に行っただけで、わしはまだ二三度しか宿とまっていないのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
披露ひろうは帝国ホテルで行うこと、御牧側では、子爵ししゃくは老体のことであるから、嗣子ししの正広夫妻が代理を勤めるであろうこと、等々の話をした。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この町は、子爵ししゃくほう前田家まえだけの旧城下町であって、その頃の小学校は旧藩主のもとの屋敷をそのまま使ったものであった。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それにもかかわらず、この室にどこからか赤外線を当て、それを赤外線の活動写真に撮影したのだった。そして人物は子爵ししゃく夫人黒河内京子と青年潮十吉!
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
先夫の家は子爵ししゃくで、別に資産はなかったが、とにかく旧華族の家柄なので、世間の耳目をはばかり親族は夫の帰朝を待たず多病といいなして鶴子を離別した。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
連中には新聞記者もまじったり、文学者、美術家、彫刻家、音楽家、——またそうした商人あきんどもあり、久しく美学を研究して、近頃欧洲から帰朝した、子爵ししゃくが一人。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにがし子爵ししゃく夫人ともいいそうなりっぱな貴婦人が、可愛らしい洋服姿の子供を三四人つれてそこから出て来て、嬉々ききとして馬車に乗ると、御者はむちを一あてあてて、あとに白いほこりを立てて
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
古風作者こふうさくしゃかきそうな話し、味噌越みそこし提げて買物あるきせしあのおたつが雲の上人うえびと岩沼いわぬま子爵ししゃくさま愛娘まなむすめきいて吉兵衛仰天し、さてこそ神も仏も御座る世じゃ、因果覿面てきめん地ならしのよい所に蘿蔔だいこは太りて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
子爵ししゃく二川重明ふたがわしげあきが、乗鞍岳のりくらたけの飛騨側の頂上近い数百町歩の土地を買占めただけならかく、そこの大雪渓だいせっけいを人夫数十人を使って掘り始めたというのだからニュース・ヴァリュ百パーセントである。
駿豆すんず鉄道の沿線に河田子爵ししゃくの別荘が売り物に出ている、家は高台で見晴しがよく、畑も百坪ばかりある、あのあたりは梅の名所で、冬暖かく夏涼しく、住めばきっと、お気に召すところと思う
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わしは大牟田敏清おおむたとしきよというものだ。とっくに礼遇を停止されているけれど、お上から子爵ししゃくの爵位まで頂いておった身分だ。それが、アア、皆さん大きな声で笑って下さい。わしは子爵の人殺しなのだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この時計に心覚えがございますの。持主の方も存じておりますの。お名前は、一寸ちょっと申上げ兼ますが、ある子爵ししゃくの令嬢でいらっしゃいますわ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と云うのは、あなた方も名前は御存知であろうが、維新の際に功労のあった公卿くげ華族で御牧みまきと云う子爵ししゃくがある。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
黒河内尚網くろこうちひさあみというれでも子爵ししゃくなのですよ。伯母の子爵夫人というのは、京子といいました」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
父から、杉野子爵ししゃくの来訪が、縁談のためであると、聞かされると、瑠璃子るりこは電火にでも、打たれたように、ハッとおどろいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
或る夜嵯峨さが子爵ししゃく邸から電話で、昨日東京から此方へ着き、二三日滞在しているつもりであるが、一遍御主人御在宅の折に参上したいと云って来たので、夕刻からなら
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)