奸策かんさく)” の例文
こないだ差し上げた手紙は、とても、ずるい、蛇のような奸策かんさくに満ち満ちていたのを、いちいち見破っておしまいになったのでしょう。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いかに巧妙な奸策かんさくであるかがわかります。驚くの外ありません。世間の疑問、憤怒、探索をルパン一人に背負わせているんです。
それが、かねて弁円から聞いていることによって叡山えいざんの卑劣な奸策かんさくが大きな動因となっているのをよく知っているからである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを見ながら叔父は腹の中でいろんな奸策かんさくを立て直しつつ、お客の株を売ったり買ったりして、悪銭をカスッている事が私によくわかった。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二人の情通露見したる時に、朋輩勘十郎の奸策かんさく同時に落ち来りて、清十郎が布子ぬのこ一枚にて追払はるゝ段より、お夏の愛情は一種の神韻を帯び来れり。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
酒井侯の示唆による一ノ関の奸策かんさくは、まったくこの壊疽の毒に等しい。いま断乎だんこたる手段をとらなければ、毒は全身に廻って救い難いことになるだろう。
そいつの奸策かんさくが私をおびきこんで人殺しをさせ、そいつのたてた声が私を絞刑吏に引渡したのだ。その怪物を私はその墓のなかへ塗りこめておいたのだった!
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
がもとよりその感動を、彼はすぐに後悔した——ことに、夫の気弱さと妹の奸策かんさくとに腹をたてたポアイエ夫人を、いろいろなだめなければならなかったときに。
そこで、そのつぎには数十円を供えたれば、包みの中に一銭もなく、全く取られてしまったということだ。後に調べてもらったれば、盗賊の奸策かんさくであったそうだ。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
かれははじめてそれが手塚の奸策かんさくだと知ったのである。かれは立ちあがってかれらのあとを追いかけようと思った。が足の痛みは骨をえぐられるようにはげしい。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
鳥の身体が空気枕のように膨らんでいれば誰にでも直ぐその奸策かんさくを見付けられるけれども、鳥の身体へ空気を強く吹込むと筋肉間の薄い膜を破って空気は小さな隙間すきまへ進入する。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
詐欺師や香具師やしの品玉やテクニックには『永代蔵』におおかみの黒焼や閻魔鳥えんまちょう便覧坊べらぼうがあり、対馬つしま行の煙草の話では不正な輸出商の奸策かんさくを喝破しているなど現代と比べてもなかなか面白い。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
男子、事に当ってはつねに正々堂々、よしや悪を懲らすにしても女々しき奸策かんさくを避けてこそ本懐至極じゃ。天下御名代のお身でござる。愚か致しましたら、竜造寺家のお名がすたり申しましょうぞ
いずれも皆深切の情に出ることにして、あえ奸策かんさくとは云うべからず。
故社員の一言今尚精神 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
神よ、私は俗人の奸策かんさくともない奸策が
我が祈り:小林秀雄に (新字旧仮名) / 中原中也(著)
それは継母の奸策かんさくの為めであつた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
あれを陽なたに出せば、奸策かんさく歴然ですから、いかに高家たりとも文句はおくびにも出せないはずと、てまえは固く信じまする
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金の損失は——それを彼はだれにも一言も漏らさなかったが——ごく僅少きんしょうな額だった。しかしジャンナン氏がある奸策かんさく家と接触するようになってからは、様子が違ってきた。
「いかに、母を奪うために、子のなした情の上のことたりといえ、その奸策かんさく、その卑劣、やわか生かしておくべき」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さきに、奸策かんさくをえがいていた呂宋兵衛るそんべえが、こんどは、狡智深謀こうちしんぼうな家康と、どう手を組んでくるだろうか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三法師君を飾りものに抱いて、実は羽柴筑前というつまらぬ男に、御一門や諸侯の辞儀を故意にいたる汝の奸策かんさくであったにちがいあるまいが。……いや、そうだ。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『はい。たとえ先に奸策かんさくがあったにせよ、不覚はどこまでも不覚です。これから行って、長国寺の大吊鐘を斬ったところで、まだまだ、きょうの自分の気持はぬぐわれません』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『公平でないっ。今日の刀試しには、公然と、奸策かんさくが行われていると存じます!』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この伊那丸に恩義を売りつけ、柴田が配下に立たせようはかりごとか、または、後日ごじつに、人穴城をうばおうという汝らの奸策かんさく、この伊那丸は若年じゃくねんでも、そのくらいなことは、あきらかに読めている
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうまでもなく、恋と慾の二道ふたみちをかけている、旅川周馬たびかわしゅうま奸策かんさくである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長政はこれにおるが、何も知らぬ幼児おさなご生命いのちやくして、ものをいおうとは、卑劣ないたし方。そちも織田家の一方の将、木下藤吉郎というほどの者ならば、さような奸策かんさくはみずからに恥じたがいい。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)