奔放ほんぽう)” の例文
奔放ほんぽうは廃徳な心状を以てなす芸術に於て自己を完成しても——すくなくともその当人はそう自信して居る場合、それは自己完成と云え様か。
大いなるもの (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
時には即興に自分の歌を歌う、常々の押し込められた感情が自由に奔放ほんぽうに腹の底から噴き上げて来る。そしてそれが私を慰める。
もしくはどのような奇抜奔放ほんぽうなる断定も下し得られようが、それが安全なる将来の常識を、築き上げ得る望みはまことに少ない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
手法の自由さと意図の奔放ほんぽうさに、褒貶ほうへん相半あいなかばしたが、その後相次あいついで含蓄の深い大曲を発表し、独特の魅力で反対者の口をかんしてしまった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
『西遊記』と限らず、この種のいわゆる支那の奇書くらい放恣ほうしな幻想がその翼をかって、奔放ほんぽう虚空こくうけまわっているものも少いであろう。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
元来、女にえていた奔放ほんぽうな野獣武士の本能と相俟あいまって、そこには想像外な性社会の醗酵はっこうが都の夜の底をびらんさせていたのではあるまいか。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信濃前司行長しなののぜんじゆきながとされているが、感情の累積による物語の構成は、それが、ただ、雄大だとか複雑だとかいうだけではなく、流動形式の自在奔放ほんぽうなことは
そこには少しの狐疑こぎだにない。あの驚くべき筆の走り、形の勢い、あの自然な奔放ほんぽうな味わい。既に彼が手を用いているのではなく、何者かがそれを動かしているのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そこで曲目は断層だんそうをしたかのように変化し、奔放ほんぽうにして妖艶ようえんかぎりなき吸血鬼の踊りとなる——この舞台のうちで、一番怪奇であって絢爛、妖艶であって勇壮な大舞踊となる。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さらにまたフィツジェラルドのこの奔放ほんぽうな韻文訳以外にも、英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、イタリイ語等への直接ペルシア語からの韻文や散文の訳が数多く試みられた。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
舟はさかのぼる。この高瀬舟の船尾には赤のわくに黒で彩雲閣さいうんかく奔放ほんぽうに染め出したフラフがひるがえっている。前にさおさすのが一人、うしろをこぐのが一人、客は私と案内役の名鉄めいてつのM君である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
波の呼吸をのみこんで、海を征服しているような奔放ほんぽうな動きであった。
私は海をだきしめていたい (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
かれの文体は、後年には端的な奔放ほんぽう性を、巧緻こうち斬新ざんしんな陰影を欠いた。
一代ももともと夜の時間を奔放ほんぽうに送って来た女であった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「私には兄上のご行動が、奔放ほんぽうに過ぎるように存ぜられます。不安で不安でなりませぬ。少しご注意くださいますよう。少なくも石置き場のあき屋敷などへは、あまりお行きになりませぬよう、願わしいものに存じます」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
堅気かたぎの娘たちとは調和しない奔放ほんぽうさがあった。
幼い日の夢は奔放ほんぽうであり荒唐でもあるが、そういう夢も余り早く消し止めることは考えものである。海坊主も河童かっぱも知らない子供は可哀想である。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
早くから家を飛出して、諸国を奔放ほんぽうに遍歴していたが、近頃、何かの手づるがあって、金吾中納言秀秋の小早川家へ仕えているという噂だけが聞えていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ベルリオーズは奔放ほんぽうで情熱的で軌道を持たなかった。彼自身その生活と作品を支配するすべを知らなかったためである。「彼は美を信ぜず、彼自身を信じない」と言うのは正しい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ところがいで起こった宗因そういんの一派に至っては、あまりにも空想が奔放ほんぽうであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
技巧の作為が、どうしてあの奔放ほんぽうな味わいを産み得よう。またはかくまで豊かな変化を発し得よう。ここにはいたずらな循環がなく、単なる模造がない。常に新たな鮮かな世界への開発がある。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そのうちに、かの女の奔放ほんぽうなことばつきと、男のすご味をもった大声が、喧嘩でもし初めたように聞えて来た。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この翁一門の俳諧に感謝しなければならぬことは、第一には古文学の模倣を事としなかったこと、ロマンチックの古臭い型を棄て、同時に談林風だんりんふうなる空想の奔放ほんぽうを抑制したことである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
奔放ほんぽうな即興に高い芸術性を賦与ふよすることはショパンの独壇場どくだんじょうだ。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)