天佑てんゆう)” の例文
「さしもの司馬懿も、まんまと自己の智に負けた。もし十五万の彼の兵が城に入ってきたら、一きんの力何かせん。天佑てんゆう、天佑」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うん、大したことでは無い」彼はついに口を開いた。「ただ天佑てんゆうというものが今度の場合にも、おたがいに必要なのだ。いずれ判るだろうがね」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
入れて置いた紙の箱はつぶれ、上包うわづつみすすけ破れて、見る影もありませんが、中の物は無事なので、天佑てんゆうとはこのこととばかりにうれしく思いました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
彼は実に天佑てんゆうによって勝ち得べからざる勝をったのである。満堂いずれも奇異の思いをなして一語を発する者もない。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
天佑てんゆうと名医の技術によって幸いに子供は無事に回復した。骨の折れたのも完全に元のとおりになるのだそうである。
鎖骨 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
転がったのが天佑てんゆうであった。戸が開くと同時に恐ろしい物が、彼を目掛けて襲いかかって来た。それを正面まともに受けたが最後、彼は微塵みじんにされただろう。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分で登ったのか、天佑てんゆうで登ったのかほとんど判然しない。ただ登り切って、もう一段も握る梯子がないと云う事をさとった時に、坑の中へぴたりと坐った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかも天佑てんゆうというのか、好運というのか、私は無事に起き上ったので、人々はまたおどろいた。私は馬にも踏まれず、車輪にも触れず、身には微傷だも負わなかったのである。
御堀端三題 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それを認めたのは天佑てんゆうのようなもので、日中なら、かえって通り過ごしたかも知れません。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家があって、漁船がつながれていて、それとなく炊煙の匂いも感ぜられる魚臭い浜に、人がおった! 不思議でもないことが不思議なのである。あたり前のことが天佑てんゆうのようにありがたいのである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
やります、しかしこんどの事はちょっと天佑てんゆうという感じでした
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「まったく天佑てんゆうだ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
この天佑てんゆうと、この名剣に、阿斗はよく護られて、ふたたび千軍万馬の中を、星の飛ぶように、父玄徳のいるほうへ、またたくうちに翔け去った。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なるほど、そうですか。これも天佑てんゆうの一つでしょうな」自動車隊は、暗闇の中を、なおもグングンと、驀進ばくしんして行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
よく約束したように、そこんとこに芋屋があったもんだ。これを大袈裟おおげさに云えば天佑てんゆうである。今でもこの時の上出来に行った有様を回顧すると、おかしいばかりじゃない、嬉しい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
海上は、天佑てんゆうと申すべきほどに無難でありました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そしてそれが決して、最後でもなく、だめでもなく、天佑てんゆうにせよ、何にせよ、こうしてその後も生きているからである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
攻撃力の弱い旧型駆逐艦くちくかんの如きは、敵の航空母艦に撃沈されるのは覚悟の上で、それでも万一天佑てんゆうがあって撃沈までの時間が伸びるようだったら、その機をはずさず
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「なにもかも、これは天佑てんゆうと申すべきでしょう。勝ってもまだ、勝ったことが、夢心地のように存ぜられます」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ッと叫ぶ余裕もない。指先には四つ折にした手紙があるのだ。彼は天佑てんゆうを祈りながら指先に力を籠めて静かに引張りあげた。遂に手紙の端が格子の上に出た。——もう大丈夫!
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは呂布が意識して徐州にほどこした徳ではないが、わしは天佑てんゆうに感謝する。——今日、呂布が窮鳥きゅうちょうとなって、予に仁愛を乞うのも、天の配剤かと思える。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死の一歩前に、島影が見えるなんて、何という天佑てんゆうでしょう。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天佑てんゆうとは、要するに、大いなる天運に順うことで、天の運行に、さからうことでないことと解している。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「貴艦の武運と天佑てんゆうを祈る」
太平洋雷撃戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
権之助はゆうべ、彼女の茶店の腰掛に眠っており、天佑てんゆうといおうか、はしなくも、彼らのきょうのたくごとを、すっかり聞いてしまったので、すぐ、そう察したのであった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ともあれ、再会を得たのは、まことに天佑てんゆう、めでたい。半兵衛にとっても、近頃のよろこび」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
趙雲にとって、また無心の阿斗にとって、これもまた天佑てんゆうにかさなる天佑だったといえよう。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まだここへ、武蔵も清十郎も来ないというのは、吉岡家の天佑てんゆうですぞ。諸氏はよろしく、手わけをして、清十郎どのがここへ来ぬうち、はやく途中から道場へ連れてお帰りなされ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「夢ではありません。天佑てんゆうです。私達は生きています」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この筏は天佑てんゆうかも知れんぞ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まったくの……天佑てんゆうじゃ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わざか。天佑てんゆうか。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「アア天佑てんゆう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)