大業おおぎょう)” の例文
帳場のぼんぼん時計が、前触まえぶれなべに物の焦げ附くような音をさせて、大業おおぎょうに打ち出した。留所とめどもなく打っている。十二時である。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大業おおぎょうにし過ぎるということは若い者にあり勝ちの欠点かも知れない。重大事を重大事として扱うのに不思議はないと思うから。
生きること作ること (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
稽古を積めば積むほどたのしみが深くなってゆきまして、大業おおぎょうに申せば、私どもの生活のすぐれたかてとなって居ります。
無表情の表情 (新字新仮名) / 上村松園(著)
とぼけた顔。この大業おおぎょうなのが可笑おかしいとて、店に突立つッたった出額おでこの小僧は、お千世の方を向いて、くすりと遣る。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのほか仲間ちゅうげん槍持やりもち挟箱担はさみばこかつぎ、馬方に至るまで、みな人足の肩を借りたり手を借りたりして、なかなか大業おおぎょうなことでありました。駒井能登守はそれと気がついて
見まわすと、窓の上、四方の板壁には、フランクリン、リンコルン、ビスマークだ、西郷南洲、そうした世界的英雄の廉物やすものの三色版がさも大業おおぎょうに掲げられてあった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「まるでこの間の刑事さん見たいね」〆治は大業おおぎょうに笑いながら「それはありましたわ。松村まつむらさんていうの。この近くの山持の息子さんで、それや大変なのぼせ様でした。 ...
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
オットー・バシンという人も同じ仲間であったがこの人は聴講に身が入って来ると引切りなしに肩から腕を妙に大業おおぎょうに痙攣させるので、隣席に坐るとそれが気になって困った。
ベルリン大学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ばあやだけ残して抱え全部を懇意な待合の一室に外泊させ、お神も寝ずの番で看護を手伝うのだったが、苛酷かこくな一面には、派手で大業おおぎょう見栄みえっぱりもあり、箱丁はこやを八方へ走らせ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
文「いや、それは余り大業おおぎょうです、時の御老役のお耳に入れるまでの事はございません」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は折々突然に開き直って、いとも鹿爪しかつめらしくうなり出すと大業おおぎょう見得みえを切って斜めの虚空をめ尽したが、おそらくその様子は誰の眼にも空々しく「法螺忠」と映るに違いないのだ。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
お前たちはまるで勝手だねえ、僕たちがちっとばっかしいたずらすることは大業おおぎょうに悪口を云っていいとこはちっとも見ないんだ。それに第一お前のさっきからの数えようがあんまりおかしいや。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
何んだかこう角立かどだって、大業おおぎょうに見せるのが不愉快なのです。
こういう大業おおぎょうな標題がまず葉子の目を小痛こいたく射つけた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
なんにしても大業おおぎょうなこと、わずか二三の人を送るに駿馬しゅんめに乗り、飛び道具を用意するとは。
大業おおぎょうな事を云うから、小瀧も此の茂之助を金の有る人と思いますと、容貌こがらも余り悪くはなし、年齢としは三十三で温和おとなしやかな人ゆえ、此の人にすがり付けば私の身の上も何うか成るだろうと云うと
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さあ、是沙汰これざた大業おおぎょうで、……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人はなんてえか知りませんが、施しといやア大業おおぎょうです、わたくしちいさい時分貧乏でしたから、貧乏人を見ると昔を思い出して、気の毒になるので、持合せの銭をやった事がございますから、そんな事を
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)