大厦たいか)” の例文
かくて一方には大厦たいか高楼こうろうにあって黄金の杯に葡萄ぶどうの美酒を盛る者あるに、他方には襤褸らんるをまとうて門前に食をう者あるがごとき
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
かかる士魂を多く擁しながら、遂に、大厦たいかの崩壊を坐視のほかなきていにあった勝家の、家長としての自責はけだしどのようであったろう。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわゆる大厦たいか高楼こうろうが軒を並べ、しかもどことなくゆったりした気分に包まれているのは、名古屋そのものを象徴していると言うべきでしょう。
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
夜眼にハッキリとは解らないが、家の造り方も尋常なみちがい、きわめて原始的のものらしく、ひときわ眼立つ一軒の大厦たいかは、部落の長の邸であろう。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その大厦たいかの天井裏で毎夜踊り廻る者あり。大工が天井張った時山茶の木の槌を忘れのこせしが化けたという。
さざなみのような忙しい白さで着席していく姿と、自分の横の芝生にいま寝そべって、半身をじ曲げたまま灯の中をさしのぞいている栖方を見比べ、大厦たいかの崩れんとするとき
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
勝沼の町とても東京こゝにての場末ぞかし、甲府は流石に大厦たいか高樓、躑躅つゝじが崎の城跡など見る處のありとは言へど、汽車の便りよき頃にならば知らず、こと更の馬車腕車くるまに一晝夜をゆられて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かくの如く我が好模範は大厦たいか高楼に枕を高くしている大事業家ではなく、心なき人の足下に蹂躙せらるる野末の花に等しい名もなき小売人の中にこそ我が学ぶべき師はあるものと信ずる。
私の小売商道 (新字新仮名) / 相馬愛蔵(著)
しらみてふ虫などもはひぬべくおもふばかりなり、かたちはかくまずしくみゆれどその心のみやびこそいといとしたはしけれ、おのれは富貴の身にして大厦たいか高堂に居て何ひとつたらざることなけれど
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
見よ! 眼前にそびえた広海屋本店の、巌丈堅固がんじょうけんご大厦たいかは、すでに一めんに火が廻って、吹き立って来た北風に煽られた火焔は、天井を焼き抜き、ひさしい上って、今しも、さしもの大厦の棟が
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そして灯の多い、大厦たいかの立ち竝んだ場所へ着いた。私はと或る家の中に有耶無耶で擔ぎ込まれた。それから宥めるやうに或る室に連れ込まれた。そしてそこで初めての、不面目な一夜を過ごした。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
いづれ大厦たいかいしずゑや、彼方かなたを見れば斷え續く
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
しかし大厦たいか高楼ではない。セイの低い平家建て、数え切れないほどの材木が、あるいは立てかけられ、あるいは積まれ、または雑然と投げ出されている。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
考えれば、寝ても立ってもおられぬときだのに、大厦たいかを支える一木が小説のことをいうのである。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
大厦たいか玉楼に無数の美女をあつめ、錦繍きんしゅうの美衣、山海の滋味と佳酒、甘やかな音楽、みだらな香料など、あらゆる悪魔の歓びそうな物をもって、彼の英気を弱めにぶらせ
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勝沼かつぬまの町とても東京ここにての場末ぞかし、甲府はさすがに大厦たいか高楼、躑躅つつじさきの城跡など見るところのありとは言へど、汽車の便りよき頃にならば知らず、こと更の馬車腕車くるまに一昼夜をゆられて
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二重の城壁に囲繞いにょうされた、「麗人族」の市街まちなるものは、まことに立派なものであり、家々はほとんど石造であった。それがいずれも三層四層の、大厦たいかであり高楼であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その影を失ったのは、山門の大厦たいかが、大きな響きを立てて焼け落ちた瞬間だった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日本堤には、大厦たいか高楼が軒をならべ、サクラ鍋の殿堂に、紺タビの女中さん達が、夜どおし、庶民大衆の盛夜の宴の為に声をからしていた。そこでは知識無知識なく、職別老若の差もなかった。
いずれも地上から十余丈の大厦たいかである。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魔風、大厦たいかに吹きかけ
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれほどな大厦たいかが。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)