夜網よあみ)” の例文
京橋築地の土佐堀では小鯔いなが多く捕れるというので、ある大工が夜網よあみに行くと、すばらしい大鯔おおぼらが網にかかった。
有喜世新聞の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
舞台はあい愛する男女の入水じゅすいと共に廻って、女の方が白魚舟しらうおぶね夜網よあみにかかって助けられる処になる。再び元の舞台に返って、男も同じく死ぬ事が出来なくて石垣の上にあがる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ことに夜網よあみの船のふなばたって、音もなく流れる、黒い川をみつめながら、夜と水との中に漂う「死」の呼吸を感じた時、いかに自分は、たよりのないさびしさに迫られたことであろう。
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私が夜網よあみにゆく道で逢ったところが、なんでも一所いっしょにゆくというので出かけて、だんだん夜がけてから、ふと気がつくと、今までそこに立って網をもっていたなにさんの姿がなくなっている。
人魂火 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それも燈火あかりがなくては水上の巡廻船にとがめられる恐れがありますから、漁師が夜網よあみなど打ちにまいるとき使う、巡査おまわりさんが持っていらっしゃる角燈かくとうのようなものまで注意して持ってきているから
舞台は相愛あひあいする男女の入水じゆすゐと共に𢌞まはつて、女のはう白魚舟しらうをぶね夜網よあみにかゝつて助けられるところになる。再びもとの舞台に返つて、男も同じく死ぬ事が出来できなくて石垣いしがきの上にあがる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
僕の父の友人の一人ひとり夜網よあみを打ちに出てゐたところ、何かともあがつたのを見ると、甲羅かふらだけでもたらひほどあるすつぽんだつたなどと話してゐた。僕は勿論かういふ話をことごとく事実とは思つてゐない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
油紙で張った雨傘にかど時雨しぐれのはらはらと降りかかるひびき。夕月をかすめて啼過なきすぐかりの声。短夜みじかよの夢にふと聞く時鳥ほととぎすの声。雨の夕方渡場わたしばの船を呼ぶ人の声。夜網よあみを投込む水音。荷船にぶねかじの響。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
船頭が篝火を焚きながら夜網よあみを打つてゐる水の上に、寺の鐘がゴオンと響いてくる暗い景色や、或は野薔薇の花が星のやうに咲く古城の壁に月の光の蒼くさまよふ夜のさまなど、近松、默阿彌
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)