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墨畫
折から
淡々しい
月の
光、
鐵窓を
洩れて、
床の
上に
網に
似たる
如き
墨畫を
夢のやうに
浮出したのは、
謂ふやうなく、
凄絶又慘絶の
極で
有つた、アンドレイ、エヒミチは
横たはつた
儘、
未だ
息を
殺して
それから
大きな
赤い
橙を
御供の
上に
載せて、
床の
間に
据ゑた。
床には
如何はしい
墨畫の
梅が、
蛤の
格好をした
月を
吐いて
懸つてゐた。
宗助には
此變な
軸の
前に、
橙と
御供を
置く
意味が
解らなかつた。