土鼠もぐら)” の例文
ただ土鼠もぐらのように、命のある限り、掘り穿っていくほかには、何の他念もなかった。彼はただ一人拮々きつきつとして掘り進んだ。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
パリサイ人らが構えたわなには土鼠もぐらはかかるかもしれないが、小鳥のように天空高く飛び上がるイエスはかかり給いません。
そうしてあからさまに云う時は、肩身を狭め、日の目を恐れ、土鼠もぐらのように活きることに、俺は興味さえ持っている。……活きて行く道は幾通りもある。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は、こんな狭い坑道を這いまわっている時、自分が、本当に、土鼠もぐらの雄であると感じた。タエは、土鼠の雌だ。彼等は土の中で密会する土鼠の雄と雌だった。
土鼠と落盤 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
この日一年中の害鳥害獣を追い払う所作しょさありや否。からす土鼠もぐら以外に、この日駆逐せられるものは何々か。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
粘質壌土ではあり、土鼠もぐら穴は十分に塞いだつもりだったので、これ以上は手の下しようが無かった。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
きず持つ身のたちまち萎縮して顔色を失い、人のしりえ瞠若どうじゃくとして卑屈慚愧ざんきの状を呈すること、日光に当てられたる土鼠もぐらの如くなるものに比すれば、また同日の論にあらざるなり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
土鼠もぐらつちなかをもくもくつてきますと、こつりと鼻頭はながしらツつけました。うまいぞ。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「いや、別に話つていふやうな話もないでね。まただいぶ土鼠もぐらが出るね」
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
なんとなく春めいてきた、土鼠もぐらがもりあげた土くれにも春を感じる。
三八九雑記 (新字新仮名) / 種田山頭火(著)
世はしたにいかにも強ひようるはしき日知らで土鼠もぐら土を掘るごと
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
たぎれども色すみ透る湯のつぼにしづむ土鼠もぐらのその白き足
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
八番坑のその奥には、土鼠もぐらのように、地底をなお奥深く掘進んでいる井村がいた。圧搾空気で廻転する鑿岩機さくがんきのブルブルッという爆音が遠くからかすかにひゞいて来る。
土鼠と落盤 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
おいらは石地蔵の六といい、仲間は土鼠もぐらの源太といって、大した悪事もやらねえが、コソコソ泥棒、掻っ払い、誘拐かどわかしぐらいはやろうってものさ、さてそこでお前さんだが
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
広く保存せられているのは鳥追いと土鼠もぐら打ちで、これも正月の鳥獣の少ない時に予行するために、次第に遊戯化して子供の役となり、江戸では非人の娘などがその歌をうたって門付けをした。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
農夫のうふはたけにきてみたら、おほきな土鼠もぐらがまんまと捕鼠器ほそきかゝつてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
彼のあめを知らぬ土鼠もぐら宮守みやもりにわが歌悪しと憎まれにけり
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
どう致しまして土鼠もぐら小僧だアね、なるほどお手許金頂戴でよ、大名屋敷へ忍ぶと云やア、豪勢偉そうに聞こえるけれど、細川様の姫君に見とれ茫然ぼんやり突立っているもんだから
善悪両面鼠小僧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三一 鳥追い土鼠もぐら打ち
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
土鼠もぐら
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)