土山つちやま)” の例文
祖父が病を押して江戸からお国へ帰る途中、近江おうみ土山つちやまで客死せられたのは、文久ぶんきゅう元年のことでした。長兄が生れる前年です。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
丹三郎の不仕鱈ふしだらには限りが無かった。草津、水口みなくち土山つちやまを過ぎ、鈴鹿峠すずかとうげにさしかかった時には、もう歩けぬとわめき出した。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そうして土山つちやまから出た人物のうちでは、千両函せんりょうばこえてはりつけになったのが一番大きいのだと云う一口話をやはり友達から聞いた通り繰り返した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小唄に残っているあい土山つちやまへひょっこり出る。屋根附の中風薬の金看板なぞ見える小さな町だが、今までの寒山枯木に対して、血の通う人間に逢う歓びは覚える。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お豊の実家で娘の姿が見えぬとて、親たちもお豊の婿むこになるべき人も血眼ちまなこになって、八方へ飛ばした人が、関と坂下へ来た時分には、男女ふたりの姿は土山つちやまにも石部いしべにも見えませんでした。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「阪は照る/\鈴鹿は曇る。あひの土山つちやま雨が降る。」てふ郷曲の風情を一人旅の身にしめながら土山までのり、その晩は遂にいぶせき旅籠はたごに夜を明し、翌日は尚ほ三里の道を水口までゆき
伊賀、伊勢路 (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
あひの土山つちやまあめがふる。
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
あいの土山つちやま、雨がる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御遺言にまかせて、お骨は土山つちやまの常明寺の祖父のお墓の傍に納めました。年が立って兄も亡くなられ、向島の墓も都合で三鷹みたかへ移されました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
さうして土山つちやまから人物じんぶつうちでは、千兩凾せんりやうばこへてはりつけになつたのが一番いちばんおほきいのだと一口話ひとくちばなし矢張やは友達ともだちからいたとほかへした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あひ土山つちやまあめる。
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
祖父様じいさまは江戸からお国へお帰りの途中、近江おうみ土山つちやまの宿でお亡くなりになって、その地へお埋めしたのですから、お国のはもっと古い仏様ばかりです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
安井やすゐわらひながら、比較ひかくのため、自分じぶんつてゐるある友達ともだち故郷こきやう物語ものがたりをして宗助そうすけかした。それは淨瑠璃じやうるりあひ土山つちやまあめるとある有名いうめい宿しゆくことであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それは浄瑠璃じょうるりあい土山つちやま雨が降るとある有名な宿しゅくの事であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)