呵成かせい)” の例文
折柄おりから時分どきでござろう——」と、戸田老人は陽を仰いだ、「このあたりで昼食をしたため、あとはすなわち一気呵成かせいとまいろうか」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
此歌萬葉時代に流行せる一氣呵成かせいの調にて少しも野卑なる處は無く字句もしまり居り候へども全體の上より見れば上三句は贅物ぜいぶつに屬し候。
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
其代りふでちつとも滞つてゐない。殆んど一気呵成かせい仕上しあげた趣がある。したに鉛筆の輪廓があきらかにいて見えるのでも、洒落なぐわ風がわかる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おれは締切日を明日みょうにちに控えた今夜、一気呵成かせいにこの小説を書こうと思う。いや、書こうと思うのではない。書かなければならなくなってしまったのである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
吉川君は年末年頭を利用して、一気呵成かせいに事を決する積りだったが、丸尾夫人調製の番組プログラム悉皆すっかり腐ってしまった。クリスマスセールへの同伴さえかなわなかった。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
演説の方なら十時間でも一気呵成かせいだが、文章となると考えばかりが先走って困るんだ。おまけに唯一の参考書類兼活字引いきじびきともいうべき友吉おやじが居ないんだからね。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
また谷間をS字形に縫っている真白まっしろな行手の自動車道ドライブ・ウェー蒼翠そうすいの間に見出しながら、いつでも千々岩灘と千々岩松原を、両山脚の間に見て、一気呵成かせいにおりて行く趣きは
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
そして私の最初の経験は、かなり良好であったことを、白状せねばならぬ。だが、矢田部氏に至っては、一気呵成かせい、皿に残ったものをすべて平げて了った。坐って物を食うのは困難な仕事である。
夢中になって拵え、かかりきりで一気呵成かせいに仕上げた作だ。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
この歌万葉時代に流行せる一気呵成かせいの調にて、少しも野卑なる処はなく、字句もしまりをり候へども、全体の上より見れば上三句は贅物ぜいぶつに属し候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
持久戦で焦り気味のところだったから、手柄を立てゝ、一気呵成かせいに勝ちを制する積りだった。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
当科ここの主任の正木先生が亡くなられますと間もなく、やはりこの附属病室に収容されております一人の若い大学生の患者が、一気呵成かせいに書上げて、私の手許に提出したものですが……
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
放縦ほうしょうにしてまとまらぬうちに面白味のあるものでも、精緻せいちきわめたものでも、一気に呵成かせいしたものでも、神秘的なものでも、写実的なものでも、おぼろのなかに影を認めるような糢糊もこたるものでも
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この句もとより幼穉ようちなりといへども、しかも三日月を捻出ねんしゅつしかつ一気呵成かせいにものしたる処、はるかに蒼虬の上にあり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
牧野さんはそれを一呵成かせいに抹り上げて
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この歌は酸漿ほおずきを主として詠みし歌なれば一、二、三、四の句皆一気呵成かせい的にものせざるべからず。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)