口惜涙くやしなみだ)” の例文
と云いながら力に任せて孝助の膝をつねるから、孝助は身にちっとも覚えなき事なれど、証拠があれば云い解くすべもなく、口惜涙くやしなみだを流し
もしドレゴ自身ひとりで出懸けて来ようものなら、通信機を持たぬ彼は今頃地団太じだんだ踏んで口惜涙くやしなみだに暮れていたことであろう。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
そうして見る見るうちに、美くしい眼の底に涙をいっぱいめた。津田にはそれが口惜涙くやしなみだとしか思えなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほゝにく引掴ひツつかんで、口惜涙くやしなみだ無念むねんなみだ慚愧ざんきなみだせんずれば、たゞ/\最惜いとをしさのなみだはては、おなじおもひを一所いつしよにしようと、われらこれまたとほり、兩眼りやうがんわれ我手わがて
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
口惜涙くやしなみだがいつか未練の涙にかはり、花子の胸には白井と馴染なれそめた娘時分の事が思返されて来る。二人とも有馬小学校の同級生で、帰宅してからも互に往来ゆききして一ツしよに学課の復習もした。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
どう考えても口惜涙くやしなみだを抑えることができません。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
聞居るお政のつら殘念ざんねん辯解いひわけなすともまことにせず口惜涙くやしなみだむせ返る心の中ぞあはれなり然るに天の助けにや或夜あるよ戌刻いつゝどきとも思ふ頃下谷車坂くるまざかより出火して火事よ/\と立騷ぎければ宅番の者ども大いに驚き皆々我家へ歸り見るに早火の紛は破落々々ばら/\と來たり殊に風もはげしければ今にもやけて來るかと皆々周章狼狽あわてふためき手に/\荷物を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これでは俺が手を出さない先に、とび油揚あぶらげをさらわれた形だ——と、もう少しで口惜涙くやしなみだで帰るところだった。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
飽くまで侮る一言ひとことに、年齢少としわかにて気嵩きがさの照子は、手巾ハンケチ噛占かみしめて、口惜涙くやしなみだを、ついほろほろ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云われて孝助は口惜涙くやしなみだの声をふるわせ