いざ)” の例文
いざと云ふ場で貴方の腕が鈍つても、決して為損しそんじの無いやうに、私刃物きれものをお貸し申しませう。さあ、間さん、これをお持ち遊ばせ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
翌朝よくあさは女が膳を運んで来たが、いざとなると何となく気怯きおくれがして、今はいそがしそうだから、昼の手隙てすきの時にしよう、という気になる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いざこれよりは鋭次に会ひ、其時清を押へ呉たる礼をも演べつ其時の景状やうすをも聞きつ、又一ツには散〻清を罵り叱つて以後こののち我家に出入り無用と云ひつけ呉れむと立出掛け
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
多勢の小姑や兄嫁に軽蔑されて、実家といふ背景のないものゝ惨めさは、矜も箇性もないものならいざ知らず、芸術にでも生きようとするものには、迚も堪へ切れないことなのよ。
彷徨へる (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
むねのなやみにのおそろしく、おもへば卑怯ひけふ振舞ふるまひなりし、おこなひはきよくもあれこゝろくさりの棄難すてがたくばおな不貞ふていなりけるを、いざさらば心試こゝろだめしにはいまゐらせん、殿との我心わがこゝろ見給みたま
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
圭一郎はY町の妻の實家の近所の床屋にでも行つて髮を刈り乍ら他哩たわいのない他人の噂話の如く裝つてそれとなく事實を突き留めようかと何遍決心したかしれなかつた。が、いざとなると果し兼ねた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)