)” の例文
白皙だつた顏の艶も失せ、頬のげつそりけたのが目立つて見えた。濃い髯の剃り跡の青々しさにも、何やら悲しい思ひを誘はれた。
湖畔手記 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
貧しく乏しい裏長屋に蹴落され、狂い死に、この世を呪って死んだ、父親の、あのやつけたすがたが、今更のように思い合わされる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
昌作の方は、背の高い割に肉がけて、漆黒な髮を態とモヂャ/\長くしてるのと、度の弱い鐵縁の眼鏡を掛けてるのとで二十四五にも見える。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
左門は紙帳を背後にし、頬のけた蒼白い顔を、漲る春の真昼陽に晒らして立ち、少しまぶしそうに眼をしばたたいた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
の大きな、鼻の細い、唇の薄い、はちひらいたと思ふ位に、ひたひが広くつてあごけた女であつた。造作ぞうさく夫丈それだけである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
年よりは老けて見える胡麻ごま鹽頭、頬もあごもけて、ひどく神經質らしく見えるのは、金があり餘るくせに、絶えず何んかと心配に惱まされるせゐでせう。
恩人の顔は蒼白あおざめたり。そのほおけたり。その髪は乱れたり。乱れたる髪! その夕べの乱れたる髪は活溌溌かつはつはつ鉄拐てっかを表わせしに、今はその憔悴しょうすいを増すのみなりけり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほおけて夜業よなべ仕事に健康もすぐれず荊棘いばらの行く手を前に望んで、何となし気が重かった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
顔は嶽風と雪焼けで真っ黒に荒れ、頬は多年の苦労にげっそりとけている。私はなんだか鼻の奥がつうんと痛くなるような気持で、しばらくじぶんの用件をもち出すのも忘れていたほどだ。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
莞爾かんじとした微笑が広い額、ややけた頬、角張った頣、鈎のような鼻、薄い唇、そういう顔に漂っている。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三十五六の、齢の割に頬のけて血色の悪い顔、口の周匝まはりを囲むやうに下向きになつた薄い髭、濁つた力の無い眼光まなざし——「戯談じやうだんぢやない。これでも若い気か知ら。」
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お国はけわしい目を光らせながら、グイグイ酒を飲んだ。飲めば飲むほど、顔が蒼くなった。外眦めじりが少し釣り上って、蟀谷こめかみのところに脈が打っていた。唇が美しいうるおいをもって、頬がけていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
死相を呈してしまったらしく、げっそりと、頬も顎もけていた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
と、左門は、けた、蒼白い頬へ皺を畳み煤色すすいろの唇をかすかにほころばせて微笑した。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
頬のあたりなどけてはいたが、濃い地蔵眉にはやの形をした眼、それに玉虫のように紅をつけた唇、そういう美貌に微笑をたたえながら、その主従の背後から何んとなく足音を忍ばせて
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は、うなされたような声で呟いた。瞬間に、額こそ秀でているが、顳顬こめかみの低い、頬のけた、鼻が鳥のくちばしのように鋭く高い、蒼白の顔色の、長目の彼の顔が、注した血で、燃えるように赧くなった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)