凭掛よりかか)” の例文
夫人この時は、後毛おくれげのはらはらとかかった、江戸紫の襟に映る、雪のようなうなじ此方こなたに、背向うしろむき火桶ひおけ凭掛よりかかっていたが、かろく振向き
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時(それは明治四十三年のことであった)出来上った写真は、店先の自転車に凭掛よりかかっている静三の姿のほかは、誰もはっきり撮れていなかった。
昔の店 (新字新仮名) / 原民喜(著)
慌しく滊笛が鳴つて、ガタリと列車が動き出すと、智恵子はヨラ/\と足場を失つて、思はず吉野に凭掛よりかかつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そういえばバスや電車の席にぐったりと凭掛よりかかっている人間の姿も、何か空漠くうばくとしたものに身をゆだねているようである。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
同じ思いか、面影おもかげも映しそうに、美しいひとじった。ひとり紳士は気の無い顔して、反身そりみながらぐったりと凭掛よりかかった、ステッキの柄を手袋の尖で突いたものなり。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その大きな兵隊は、余程ひどく傷ついているのだろう、私の肩に凭掛よりかかりながら、まるで壊れものを運んでいるように、おずおずと自分の足を進めて行く。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
私が城を出ます時はね、まだこの衛門之介はおめかけの膝に凭掛よりかかって、酒を飲んでおりました。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空茶店あきちゃみせ葦簀よしずの中で、一方の柱に使った片隅なる大木の銀杏いちょうの幹に凭掛よりかかって、アワヤ剃刀を咽喉のどに当てた時、すッと音して、滝縞たきじまの袖で抱いたお千さんの姿は、……宗吉の目に
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
の光の圧迫が弱まってゆくのが柱に凭掛よりかかっている彼に、向側にいる妻のかすかな安堵あんどを感じさせると、彼はふらりと立上って台所から下駄をつっかけて狭い裏の露次へ歩いて行ったが
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
前垂掛まえだれがけ、昼夜帯、若い世話女房といった形で、その髪のいい、垢抜あかぬけのした白い顔を、神妙に俯向うつむいて、麁末そまつな椅子に掛けて、卓子テエブル凭掛よりかかって、足袋を繕っていましたよ、紺足袋を……
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一升徳利の転がったを枕にして、投足の片膝組みの仰向けで、酒の酔を陰に沈めて、天井を睨んでいたのが、むっくり、がばと起きると、どたりと凭掛よりかかったまま、窓下の机をハタと打った。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蛞蝓なめくじの舌を出しそうな様子ですが、ふるえるほど寒くはありませんから、まずいとして、その隅っ子の柱に凭掛よりかかって、遣手やりてという三途河さんずがわの婆さんが、蒼黒あおぐろい、せた脚を突出してましてね。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私というものは、——ここで恥を云うが——(崇拝をしているから、先生と言う。)紅葉先生の作新色懺悔しんいろざんげの口絵に、墓参の婦人を、背後うしろの墓に外套がいとうひじをついて凭掛よりかかって、じっている人物がある。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「一月ぐらい居るかも知れない、ああ、」と火鉢に凭掛よりかかる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)